薬価も医療機器価格も診療報酬もすべて中医協で決まる
日本の医療の特徴は、公的医療保険制度の存在です。
病気になったときに、個人が自分の財布から医療費を全額出すのではなく、国民みんなから、給料などをベースに保険料を集め、いざ病気になったときには医療費のおおむね7割をその保険料財源から支払う仕組みです。病気になったときの金銭的リスクを、個人に負わせるのではなく、みんなで分かち合うのです。
この公的医療保険制度は、公定価格により医療の価格が全国一律で決められています。どこで医療を受けても、同じ内容であれば同じ値段でサービスが提供されます。
この価格設定は、特定の政策を進めるためにも利用されます。患者に特定の行動をとってほしい場合には、その行動をとった場合の価格を安く設定することで、誘導することができます。
例えば国は薬局へのお薬手帳の持参を推奨しています。災害時などの非常時に薬歴を確認できたり、また複数の医療機関で処方された医薬品を患者の記憶に頼らず確認できる利点があるからです。
薬局で薬剤師が処方箋を踏まえた調剤を行う場合の報酬として、服薬管理指導料が用意されていますが、お薬手帳を持参した患者には、持参しない患者に比べて割安な価格設定がされています。お薬手帳を持参した方が患者の負担が減るので、患者が手帳を利用するインセンティブを付けているのです。
このような価格設定は、患者に提供される医療内容に影響することはもちろんですが、医療提供者側やビジネスサイドの動きにも大きな影響を与えます。
お薬手帳の推進はお薬手帳アプリの開発による顧客獲得の動きにつながる可能性もあります。他にも新しい技術に価格をつけることで、日本全国に爆発的にそのサービスが普及することになります。オンライン診療に報酬がついたことは、オンライン診療、服薬指導のシステムを提供する企業の成長を大いに後押ししたことを否定する人はいないでしょう。
新しい仕組みで、人々の生活を便利にするようなサービスであれば、その普及のために公的医療保険を大いに活用するべきですが、その仕組みにどう関与すればいいか、明確に理解している人は少ないかもしれません。
公定価格の設定は、中医協という国の会議の場で決められています。この会議の年間の動き、意思決定のタイミング、それに影響を与える人々を知っておくことは政策を新しい時代に合わせるうえでも知っておくべきことなのです。
複雑な中医協の組織。どこで何が議論されている?
中医協について知りたいと考える人がまずつまずくのが、どの会議で何が議論されているのかを理解することです。
ここでは、皆さんの関心が高い薬価、(医療機器などの)医療材料、診療報酬の政策決定に関係のある会議を明らかにしていきます。
まず大事なのが、中央社会保険医療協議会総会です。ここはいわば最終的な中医協としての意思決定の場で、この後説明する部会で議論された内容が報告される場でもあります。診療報酬の中身について議論する本丸の場ともいえます。
薬価専門部会はもちろん薬価について議論する場です。薬価に関するルールはおおむねこの部会の場で完結します。
保険医療材料専門部会は医療機器や体外診断用医薬品を含む医療材料の価格算定ルールについて検討する場です。薬価と同様、医療材料に関するルールの主要な意思決定を行う場と考えてよいです。
診療報酬改定結果検証部会は、前回の診療報酬改定の結果を踏まえた取り組み状況を調査し、報告書を総会に提出しています。報告書の内容は総会での次期改定の議論に活用されます。
また、医療技術評価分科会は主に入院以外の医科診療・歯科診療に関する診療報酬の検討を行っています。学会等から提出された提案書に基づき、新規医療技術の評価及び既存技術の再評価を行います。この分科会の内容は、診療報酬基本問題小委員会が総会で報告します。
入院医療等の調査・評価分科会は、入院に関する診療報酬の検討を行います。この分科会の内容も、診療報酬基本問題小委員会が総会で報告します。
その他医療保険制度における費用対効果評価導入の在り方について議論する費用対効果評価専門部会もあります。改定年前年(2022年改定でいうと2021年。以下同じ)の8月、11月に意見聴取を行っています。
診療報酬に関心があれば総会と余裕があれば診療報酬改定結果検証部会、入院医療等の調査・評価分科会、診療報酬改定結果検証部会を、薬価に関心があれば総会と薬価専門部会を、医療材料価格に関心があれば、総会と保険医療材料専門部会の議論を追っていれば、一通りの情報は入手できるはずです。
(執筆:西川貴清 監修:千正康裕)
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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2023年1月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。