目立ちすぎてはいけない

黒坂岳央です。

「出る杭は打たれる」という言葉がある。この言葉に対しては必ずと言っていいほど、「閉塞的で村社会な日本特有の文化だ」と言い出す人がいる。しかし、それは誤りだ。これは他国のあらゆる文化圏についても起こり得ることである。自由経済の頂点である米国においても、他国の追従を恐れてあらゆるバッシングが起こった歴史がそれを物語っているだろう。

ビジネスにおいて、あまり過剰に目立ちすぎてはいけないと考える。目立つことで影響力が武器になる一方で、多方面からの攻撃を誘発しかねないデメリットもあるからだ。

D-Keine/iStock

目立つと攻撃される

目立つと攻撃される、これはどんな環境、状況においても共通している。

昨今、元国税調査官のYouTuberがいろんな暴露話をしているがその中で印象的だったのは「国税局は適正・公平な課税と謳っているが、その実態は目立つやつから取りにいく。なぜなら調査官の仕事は営業的な側面が非常に強いから」という話だ。

目立つやつとは、数多く寄せられる税務申告書の中から飛び抜けて売上が大きいとか、SNSで「自分は稼いでいます自慢」をして高級車や高級時計を見せびらかしているとか、怨恨からの脱税タレコミ情報を元に税務調査に動くという話だ(税務調査はまったく攻撃ではなく国家維持に必要な重要任務だが…)。

また、ビジネスでも裏社会との関わりや、違法ドラッグや違法取引に手を染めて検挙されるケースがあるが、蓋を開けてみると手を染めていたのは急成長していたビジネスマンだったりする。一世を風靡し、名を馳せるとその影響力や資金力をエサに招かれざる客を呼んでしまうのだ。

さらに昨今、全国で起きている強盗事件についても犯人グループが使用した「資産家リスト」があったという。経済界における成功のシグナルとして悪用されてしまった許されない犯行だ。

本質的に人間界では、目立つ者はどうしても攻撃を受ける確率が高まってしまうということだ。日本は法治国家で統治されているのだが、法律の垣根を強引に飛び越えてくる者まですべてを防ぎ切ることは難しい局面も存在する。

売上を減らそう

少し前「売上を減らそう」という書籍が大ヒットした。筆者も買ってみたが非常に内容が良かったし、この哲学にはとても共感できた。

売上を減らそうというのは2つの意味合いが込められている。1つ目は忙しくなりすぎることの弊害である。忙しくなりすぎると、どうしてもそこで働くワーカーへの負担が大きくなりすぎたり、商品サービスの質が行き届かなくなってしまう。「売上を減らして貧乏を楽しもう」という意味ではなく、「無理して売上を最大化しなければ、という強迫観念から卒業せよ」という提言に近い。

そして筆者はもう1つあると思っている。それは売れすぎてしまうと目立ってしまうためだ。ビジネスにおいて目立ちすぎると必ず一定数面倒事がやってくる。アンチ活動のサンドバッグになるのはまだかわいいものだが、それ以上に本気で足を引っ張ってこようとしたり犯罪に巻き込まれるといことは本当によく聞く話だ。

筆者の地元で成功している経営者と話をすると、たいてい過去に一度、二度は詐欺被害にあっている。ものすごく売上が伸びて地元で有名になると、詐欺やその他良からぬ勧誘が目に見えて増えたという。

「世界を変えるイノベーションに挑戦する!」「絶対に上場してやる!」といった大きな野望を持っている開拓者はどんどん目立つことを好む。だが自分と家族が経済的に一生困らない程度の小さな成功なら、影響力がゼロでも無名でも達成できてしまう。

個人資産を5億、10億持っている地元の社長はSNSやYouTubeの発信活動はまったくやっていないが、目立たないように静かにビジネスで成功している。もとい、影響力などは不要であり、招かれざる客に絡まれずに静かに自分の人生を楽しみたいという印象を受ける。あまりに目立つと敵が増える。静かな小さな成功者になるのも、一つの人生戦略としてアリかもしれない。

■最新刊絶賛発売中!

■Twitterアカウントはこちら→@takeokurosaka

YouTube動画で英語学習ノウハウを配信中!

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。