税理士・高山弥生のよくわかる! 身近な税金の話
令和5年10月から始まる「インボイス制度」。インボイスとは「適格請求書」のことで、新制度の下では、このインボイスを用いて仕入税額控除を受けることができます。
主に事業の仕入れやフリーランスへの外注費などに関わってくる話であるため、会社員にはあまり影響がないと思っている人も多いようですが、実はそうとも限りません。
以前執筆した「今さら聞けない、会社員が知っておきたい「インボイス」の超ポイント 」の記事では、インボイス制度下で会社員が会社の経費を使用するとき、会社からインボイスを求められる可能性があることをお伝えしました。
※インボイス制度の基本について、詳しくは上記の記事をご確認ください。
「じゃあ、経費精算ではとりあえずインボイスを提出すればいいんだよね」と思うかもしれませんが、そもそもインボイスの交付が免除されていたり、インボイスをもらう必要がないケースもあります。
経費を使用したときに、インボイスがもらえない!と焦らないように、事前にインボイスが交付されないケースを確認しておきましょう。
公共交通機関の利用
電車やバス、船舶などの公共交通機関(飛行機を除く)は、乗客全員へのインボイスの交付が困難なため、税込3万円未満の場合、インボイスの発行が免除されています。
利用者はインボイスを受け取ることができないため、インボイスの保存義務はありません。会社との経費精算には、現行の社内ルールで処理して問題ないと思われます。
また、3万円以上の公共交通機関を利用した場合で、乗車券(簡易インボイス)を交付されたものの、利用した後回収されてしまう場合も、利用者の手元にインボイスが残らないため、インボイスの保存義務はありません。
この場合も、会社との経費精算には、現行の社内ルールで処理して問題ないと思われます。
また、通勤・出張等(出張旅費、宿泊費、日当)に通常必要な金額を従業員に支払う場合、インボイスは不要とされています。
出張で新幹線を利用した場合、乗車日、運賃、乗車区間などの情報が記載された利用票が出てくるため、領収書ではなく利用票を経費精算に使用している会社があります。
インボイス制度が始まると、利用票はインボイスではないため、社内ルールが変更となって領収書の取得が必要となるのではという見方もありますが、新幹線の乗車代が出張旅費として従業員に支払われる場合、インボイスは不要となります。
3万円未満の自動販売機および自動サービス機の利用
例えば自動販売機による飲食料品の販売、コインロッカーやコインランドリーの利用料、金融機関のATMの手数料などが該当します。これらはインボイスの交付は免除されていますので、利用してもインボイスがもらえない可能性があります。
下記のものは自動販売機や自動サービス機による商品の販売等に含まれませんので、利用した場合は必ずインボイスを受け取るようにしましょう。
- コンビニなどのセルフレジ販売のように機械装置は単に精算をしているだけのもの
- コインパーキングや自動券売機のように支払いと券類の発行はその機械装置で行われるもののサービスの提供は別途行われるようなもの
- ネットバンキングのように機械装置でサービスの提供が行われないもの
自動販売機等の利用は、現行の会社での経費精算の方法で問題ないと思われますが、インボイスなしで処理するためには帳簿に自動販売機等の設置場所を記載する必要があるため、自動販売機などが設置されていた場所を経費精算書類に記載することになると思われます。
例:
自動販売機を利用した場合 ○○市
金融機関ATMを利用した場合 ××銀行□□支店
経費精算業務をスムーズに行うために
原則として従業員は経費精算時にインボイスを経理担当者へ渡し、会社はインボイスを保存する必要がありますが、交付義務を免除されている取引先に支払った場合にはインボイスは受け取れなくて当然です。
日々の経費精算業務をスムーズに行うために、インボイスを受け取らなくてよい取引のうち、自分がよく使用するものを覚えておくとよいでしょう。
また、繰り返しになりますがインボイスが不要となる自動販売機等の取引は、自動精算機を使用する取引とは異なりますので注意が必要です。
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高山 弥生 税理士 ベンチャーサポートグループ所属税理士
一般企業に就職後、税理士事務所に転職。「顧客にとって税目はない」をモットーに、専門用語をなるべく使わない、わかりやすいホンネトークが好評。税理士事務所の入所当初、知識不足で苦しんだ自らの経験をもとに、「高山先生の若手スタッフシリーズ」を出版している。インボイス関連では『消費税&インボイスがざっくりわかる本』『インボイスの気になる点がサクッとわかる本』がある。 URL https://vs-group.jp/
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年1月27日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。