去る1月31日、航空自衛隊入間基地(埼玉県)に降り立ったNATO(北大西洋条約機構)のストルテンベルグ事務総長が同基地で自衛隊員を前に、こうスピーチした(以下、NHK報道参照)。
ウクライナでの戦争は、私たちの安全保障が密接に相互に結び付いていることを示している。もし、プーチン大統領がウクライナで勝利すれば、世界中の権威主義的指導者に、軍事力を行使すれば目的を達成できるという非常に危険なメッセージを送ることになる。
私たちは危険で予測不能な世界に生きていて、民主主義と自由を信じる国の間に強力なパートナーシップが必要だ。
さらに、慶應義塾大学(東京都)でも、こう講演した。
プーチン大統領はおよそ1年前、ウクライナを支配しようと侵略戦争を開始した。この戦争は、単なるヨーロッパの危機ではなく、世界の安全保障と安定に対する挑戦だ。
もしプーチン大統領が勝利すれば『残虐な武力行使によって目的は達成できる』というメッセージを、モスクワと北京に送ることになる。
安全保障は、一つの地域にとどまらないグローバルな課題だ。
翌2月1日も、都内でNHKの単独インタビューに応じ、こう述べた。
極めて重要なのは、兵器や弾薬の供与など軍事支援を行うことだ。ウクライナが確実に占領された領土を解放し、ロシアの侵略者たちを押し戻し、独立した主権国家として勝利するためだ。
おっしゃるとおりであろう。ただ、以上の事実は、NHK以下、日本の主要メディアが大きく報じたが、その直前、同じストルテンベルグ事務総長が、韓国で述べたことについては、ほとんど知られていない。
事務総長は韓国政府高官との会談で、こう述べた(以下、ロイター参照)。
欧州・北米の出来事は他の地域と相互に関連しており、NATOはアジアでのパートナーシップを強化することでグローバルな脅威の管理につなげたい。
さらに、ソウルでの講演で、韓国がウクライナに非致死性兵器支援を行ったことに謝意を示しつつ、弾薬が「緊急に必要」だとして、さらなる支援を求めた。
これまで韓国の尹錫悦大統領が「紛争中の国への武器提供は韓国の法律により禁じられており、ウクライナへの兵器提供は難しい」と述べきたことを踏まえ、こうも述べた。
ドイツ、スウェーデン、ノルウェーなどの国も同様の政策をとっていたが、変更された。独裁や専制に勝ってほしくないのであれば、(ウクライナには)武器が必要だ。それが現実だ。
ウクライナ国民を守るためだけではなく、中国などの独裁的指導者に、『武力で何でも手に入れられる』という間違ったメッセージを送るのを避けるためにも、ロシアにこの戦争を勝たせないことが、極めて重要だ。
NHKも1月31日放送のBS番組「国際報道2023」で、油井秀樹キャスターがこう解説した。
ストルテンベルグ事務総長:独裁と専制政治の勝利を望まないのであればウクライナに武器が必要だ。私は韓国に軍事支援を継続し、強化することを強く求める。
……韓国のユン大統領との会談でこう述べたストルテンベルグ事務総長。なぜ韓国かというと、実は兵器輸出大国だからなのです。この5年間の兵器輸出で、韓国は世界の中で第8位。しかも、この中で近年最も輸出額を伸ばしています。特にロシアによる侵攻後は顕著で、この1年間は過去最高の輸出額になる見通しです。(以下略)
事実おっしゃるとおりだが、こう他人事のように解説するだけでよいのだろうか。
べつに「日本も兵器輸出大国になれ」とは言わない。だがなぜ、韓国がここまで言われ、日本には、それを求めなかったのか。
はなから当てにされていないのか。今さら嘆いても仕方がないが、NATOのストルテンベルグ事務総長は、韓国に続き、日本でも直截にこう言うべきだった。
「日本が武器輸出を抑制してきたことは承知しているが、欧州諸国も政策を変更した。ウクライナには武器が必要だ。それが現実だ。たんにウクライナ国民を守るためだけではなく、中国や北朝鮮の独裁的指導者に、『武力で何でも手に入れられる』という間違ったメッセージを送るのを避けるためにも、ロシアにこの戦争を勝たせないことが、極めて重要だ」
もし、こう言われていたら、日本はどうしたのであろうか。
そう考えただけで、暗澹たる気分に陥る。