先日、週刊新潮の記者から「LGBT問題が政局になりつつある。松浦さんは、ゲイ当事者としてどう思うか」との電話取材があった。すかさず筆者は、日頃から自分が感じていたことを答えた。「荒井勝喜秘書官の暴言は論外という他ないが、これは官邸の危機管理能力の問題ではないか」。
永田町には左派LGBT活動家のような記者が複数いて、過去同じようなことが繰り返されている。
例えば「自分はLGBTだ」と言いながら取材をしていた朝日新聞の女性記者は杉田水脈議員を執拗に追いかけ回すことで名を成したが、一方で週刊誌に藤井敏彦内閣審議官との不倫をすっぱ抜かれた。経済安全保障の情報を聞き出していたのではないかと疑われている。いわゆる令和の西山事件である。こうした情報が官邸で共有されていなかったのだとしたら、ワキが甘いと言わざるをえない。
荒井秘書官の更迭を機に、岸田首相からLGBT理解増進法を成立させよという指示が出され、再び与野党の攻防が予想される事態となった。報道によると自民党は、一昨年党内で大紛糾した「差別は許されない」という文言を削除すれば、すんなりまとまる可能性があるそうだ。
それに対して野党は、これが入らないのなら意味がないと激怒。自分たちが元々主張していたLGBT平等法(旧LGBT差別解消法)を掲げて国会論戦すべきとの主戦論が党内から出てきている。そしてマスコミは例の如く「差別は許されない」がなぜダメなのかと、連日のワイドショーで特集を組む。
修正されたLGBT理解増進法に瑕疵があることは、筆者がアゴラで何度も述べた通り。「差別は許されない」と記載されていながら、何をもって差別とするかが書かれていないのだ。そもそも何が差別に当たるのか、は非常に論争的な問題である。以下、いくつか争点を挙げてみよう。
【ケース1】
欧米的価値観に飲み込まれてしまうことを恐れてウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領は、2022年に改正LGBT宣伝禁止法を可決させた。
一方、EUに参画したいウクライナは、同性パートナーシップ制度を確立した反面、貧困女性を利用した代理母産業の一大産地であり、世界中からクライアントが殺到している。フェミニズムの第一人者、上野千鶴子氏は「他人の体を使って自分の自由を追求するな」(NHK『100分deフェミニズム』での発言)と激昂する。代理出産によって子どもをもうけるゲイカップルは多いが、批判の矛先は当然彼らにも向けられる。
さて、差別をしているのは女性を搾取しているゲイか、それともゲイの代理出産を認めないフェミニストか。
【ケース2】
2019年に成立した台湾の同性婚制度は、外国人との結婚について、相手の国も国内法で同性婚を認めていることを条件としていた。しかし2023年1月、台湾内政部は方針転換し、同性婚制度のない国の人間であっても受理すると通知を出した。
左派LGBT活動家は「国による差別がなくなった。日本は台湾を見習え」とはしゃいだが、実は例外が付いていた。カップルの一方が(香港とマカオを除く)中国本土の住人の場合は適用外とされたのだ。
台湾政府は、大量の中国人が同性婚制度を利用して戸籍を取得し、親中派政権を誕生させることを恐れている。安全保障の観点から中国を排除したのだと推測することは難くないものの、やはりこれは差別ではないのか。
台湾有事は日本有事。わが国においても中国人を排斥する台湾型同性婚が参照されてもおかしくない。その時、修正LGBT理解増進法はどのようなジャッジを下すだろう。LGBTの権利さえ守られたら、差別を内包した同性婚制度でも目を瞑るのか。
【ケース3】
2023年2月6日、立憲民主党の福山哲郎議員はツイッターで次のように署名を呼びかけた。
以下のキャンペーンに賛同をお願いします!「更迭だけで終わらせない!#岸田政権にLGBTQの人権を守る法整備を求めます」
ところが、このオンライン署名サイト(Change.org)は、一般のLGBT当事者からは大変評判の悪い代物だった。数名の運営スタッフの中にトランス活動家がいて、自分が気に入らない署名運動については理不尽な削除をしているともっぱらの噂なのだ。
『結婚・家族制度を大切にする保守の会』が行なっていた「『東京都パートナーシップ宣誓制度』創設に待った!」も、突如消されてしまったキャンペーンのひとつだ。
この会は、性的マイノリティに不当な差別があれば解消すべきだが、多様な性についての一方的な考えを押し付けるのはやめてほしいという主張を行なっていた。東京都がヒアリングをした有識者の大半が左派LGBT活動家だったことも、中立性の観点から問題があると指摘した。
果たして、左派LGBT活動家に異議を申し立てることは差別か否か。
【ケース4】
2023年2月、大阪府警が障害者支援団体の代表理事を準強制わいせつ容疑で逮捕したことがわかった。マッサージと称して部下の女性の下半身を触ったという。しかし、この男性は容疑を否認し、「体は男だが、心は女だ」「女性の体に興味はない」と話しているのだそうだ。
警察は「これまでの調べでは女性の人格はなく、性的な目的を隠すために嘘をついている」と発表し、男性の供述を全面否定した。
SNSではすぐさま容疑者のFacebookやInstagramが検索された。すると、警察の主張とは異なり、数年前から髪を長く伸ばして女性装で過ごしていたことが判明したのだ。国連の定義に従うと、この人は完全なトランス女性に当たる。
修正LGBT理解増進法が施行されれば、この場合差別をしているのは、容疑者の性自認を信じなかった警察のほうになる。性自認とは自称のことである。第三者がそれを疑ってはならないのだ。
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如何だったろうか。筆者はLGBT法や改憲による同性婚に賛成ではあるが、一筋縄ではいかない状況をご理解いただけたのではないか。
また、LGBT理解増進法は、ハコモノ行政と紐付いていると言ったら驚かれるだろうか。男女共同参画社会基本法は、基本計画が策定されることで、それに基づいて地方の隅々に至るまで様々な施策が展開された。全国各地の自治体が予算をつけ、男女共同参画センターというハコモノが乱立したことを記憶している人も少なくないだろう。
LGBT理解増進法も同じ。基本計画のもと、全都道府県に LGBTセンターが作られることは間違いないと筆者は感じている。
そのセンター長には誰がなるのか、どの活動家が職員として採用されるのか、どこのLGBT団体に教材を発注するのか、どんな人を講師として小中学校に派遣するのかなど、すでに水面化では心理的綱引きが行われている。
自民党側のLGBT活動家が主導権を握るのか、それとも左派系のLGBT活動家が主導権を握るのかで自分たちへの予算配分が大きく変わってくるのだから当然のことである。意識高い系の人たちはLGBT法=ピュアなイメージを持っているかもしれないが、もっとドロドロした法律なのである。
男女共同参画予算が適正なのかどうかが議論になっている折、今後はLGBT予算についてもしっかりチェックしていかなければならないと思う。筆者は2013年、アメリカ国務省に招聘されてLGBT研修に行ってきた。そこでは、どの州を訪れても立派なLGBTセンターのビルがあった。サンフランシスコにはLGBTの歴史資料館も作られていた。
LGBT理解増進法ができると、いずれ日本でもこうした光景が広がることとなる。国民の税金がどのように使われていくのか、注視したい。