日本共産党の「民主集中制」は共産党一党独裁の危険性がある

異例の現役共産党員による「党首公選制」提言

日本共産党の元安保外交部長で現役共産党員の松竹伸幸氏(67)は1月19日都内で記者会見し、共産党の志位和夫委員長が2000年から20年以上も党委員長を務めていることについて「国民の常識からかけ離れている」と批判した。そのうえで、「党の中にも政策の違いがあり、堂々と議論しあうことで、党の外にも見えるようにすべきだ」と述べ、すべての党員が投票して委員長を選ぶ「党首公選制」を提言した。

共産党の安保外交政策にもかかわった現役共産党員が公の場で党中央を批判するのは極めて異例であり、同氏は上記の内容を盛り込んだ著書「シン・日本共産党宣言」(文春新書)を出版した。

日本共産党は「分派活動」を理由に直ちに除名処分

委員長選出について共産党は「党大会を2年または3年の間に1回開き、代議員による選挙で約200名の中央委員を選出し、中央委員の中から委員長ら主要メンバーが決定される。党員の直接投票で党首を選ぶ選挙を行えば、必然的にポスト争いのための派閥や分派が作られる。党は過去に分派活動により分裂した苦い経験がある。委員長は今も民主的な手続きで選出されている」としている。

1月21日付の共産党機関紙「赤旗」は、藤田健編集局次長名で「党の内部問題は党内で解決するという党の規約を破るものであり、党首公選制は必然的に派閥や分派を作り組織原則である民主集中制と相いれない」などと松竹氏を批判した。

同じく共産党の志位委員長も、1月23日松竹氏の提言について「規約と綱領からの逸脱は明らか」と批判した。そして、2月6日共産党は「出版は党員の同調を期待する分派活動に当たる」などの党規約違反を理由に松竹氏を除名処分にした。

レーニンが確立した共産党の鉄の規律「民主集中制」

日本共産党規約3条で規定される、党内での派閥や分派を禁止する「民主集中制」とは、レーニンが確立した「前衛党論」であり、労働者階級を指導する中央集権化された職業革命家集団の戦闘的組織原則のことである。

レーニンは、「民主集中制」について、「社会主義革命を遂行するために、革命党は組織の民主主義的原則よりも中央集権的な一枚岩の単一の意思と鉄の規律に基づく少数精鋭の秘密組織でなければならない」(1902年レーニン著「何をなすべきか?」レーニン全集第5巻483頁~486頁。512頁~518頁等。1954年大月書店)旨を述べている。

このような「民主集中制」は、個人は組織に下級は上級に無条件に従ういわば軍隊組織のようなものである。司令部たる党中央が全国の党組織を支配できるのであり、その本質は「独裁制」と言えよう。

革命組織の組織原則としては極めて合理的且つ有効であり、とりわけ「暴力革命」を目指す組織としては、これ以上に有効な組織原則はない。なぜなら「暴力革命」は内乱であり、その中で革命組織は軍隊でなければならないからである。(立花隆著「日本共産党の研究上」22頁~26頁。昭和53年講談社)

このように、「民主集中制」が党員による党中央の方針と異なる多様な意見の表明を許容せず、党内での派閥や分派を厳禁し、一枚岩の単一の意思と鉄の規律を絶対視するものである以上は、今回の松竹氏の党外における、全党員の投票による「党首公選制」のような提言は、党を攻撃し、鉄の規律である「民主集中制」に違反する「反党行為」と見做されるであろう。

しかし、果たして、党内においては「党首公選制」のような提言が許容されるのかどうかも極めて疑問である。党規約で全党員の投票による「党首公選制」が認められていない以上は、党内で「党首公選制」を提言することも党規約違反とされる公算が極めて大きい。

党内であれ党外であれ、いずれにしても、全党員の投票による「党首公選制」のような党中央の方針に対して真っ向から異を唱える提言は、鉄の規律である「民主集中制」違反として到底許されず、厳しく処断されるであろう。共産党の立場からすれば、党規約違反もさることながら、党員による「党首公選制」の提言自体が絶対に許されないのである。

なぜなら、このような提言は、志位委員長の委員長としての地位に直結するのみならず、委員長選出方法に関し、日本のような議会制民主主義社会における共産党の最大の弱点を突いているからである。

日本共産党の「民主集中制」は共産党一党独裁の危険性がある

危険なのは、このような「民主集中制」を組織原則とする日本共産党が将来日本で政権を獲得した場合である。その場合に懸念されるのは、共産党に反対する国民の少数意見や反対意見が、一枚岩の単一の意思と鉄の規律による「民主集中制」の原則から今回の松竹氏の場合と同様に到底許容されず圧殺される「共産党一党独裁」の危険性である。

1977年には共産党員の田口富久治名古屋大学教授も共産党に対し同様の問題提起をした。同教授は「分派の禁止には賛成であるが、その代わりに少数意見の尊重など党内民主主義を保障しなければ先進国では国民の納得が得られず、多数者革命は実現できない」(田口富久治著「多数者革命と前衛党組織論」<現代と思想>第29号1977年)と主張した。

しかし、当時の共産党不破哲三書記局長から「前衛党の規律を未来社会の政治構造と同一視するもの」(不破哲三著「続・科学的社会主義研究」51頁。1979年新日本出版社)と批判され離党した。当時の共産党宮本顕治委員長も「民主集中制」に関し「党内のルールを社会に押し付けようというものでは絶対ない」(同書45頁)と批判した。

しかし、実際に日本共産党が政権を獲得した場合には、そのような保証はないと言えよう。なぜなら、旧ソ連のスターリン政権による大量粛清、中国の習近平政権への異常な権力集中、カンボジアのポルポト政権による大量虐殺、北朝鮮の金正恩政権による公開処刑などを見れば、いずれも共産党(労働党)に反対する国民の少数意見や政権批判を一切認めない「共産党一党独裁」であり、鉄の規律である「民主集中制」の原則が、単に共産党内のみならず、国民全般にも広範囲に適用されていることが明らかだからである。

議会制民主主義社会とは異質の日本共産党

戦後日本共産党の歴史を見ると、野坂参三、志賀義雄、袴田里見、中野重治、神山茂夫、鈴木市蔵などの党幹部や、野間宏、佐多稲子、安部公房、出隆、古在由重などの著名な作家、哲学者たちも「除名」されている。

除名の理由は、今回の松竹氏と同様に党中央の方針に異を唱えた「党規律違反」が多い。スターリン時代のソ連ならば、これらの人々は「除名」だけでは済まず「反党・反革命分子」として「粛清」(処刑)されていたことであろう。

このように、党員による党中央の方針と異なる多様な意見の表明や行動を許容せず、派閥や分派を厳禁するレーニン流の「民主集中制」を今も組織原則とする日本共産党は、政治的意見の多様性を認め合う日本のような議会制民主主義社会とは本質的に相いれない異質の政党であると言えよう。