1月度の日本の消費者物価指数は今週の金曜日に発表になります。メディアがこの数字を報じる場合、短期的視点の比較論で前年比や前月比がどうだった、という報じ方であり、街の声は「まぁ!」「これ以上やりくりできない!」の悲観論の声を吸い上げます。そんな中、私は日本にはもしかすると本格的インフレ時代がやってくる予兆のようなものを感じるのです。
日本が置かれたファンダメンタルズ、これがその理由です。大きくは3つあります。
1つ目は労働人口とそのミスマッチです。日本の労働人口2012年に民主党政権時代の政権運営の惨事により6565万人にまで減少したもののその後、女性、高齢者の就業が増え、2019年まで順調に伸びました。ところがコロナもあったのですが、その後は停滞気味では2022年で約6900万人です。傾向としては今後、漸減していくとみています。理由は広義の労働人口払底です。
いくら高齢者や今まで仕事を長らくしていなかった女性労働力が確保できたとしてもどの業界のどんな仕事でもできるわけではありません。レストランで高齢者の方がサーバーをしているケースは個人経営の店ぐらいです。IT関係の技術力を主婦のアルバイトに託すこともなかなかありません。女性に人気の幼稚園の先生や保母さんは少子化で明らかにポジションが足りなくなります。
岸田首相がリスキリングというのはそのような背景があるわけですが、たとえば居酒屋でビールを運ぶサーバーさんは元気で機敏に動き、大きな声を出せるのが取り柄です。つまり労働力のミスマッチは分かっているけれどそれが簡単に解消できる状況にもないということです。
2つ目は「買い負け」です。中国経済の行方については様々な見方がありますが、1つだけ確実に言えることがあります。それは胃袋は満たさねばならない、です。彼らの食糧の爆食は昨日今日に始まったわけではありません。商社はその厳しい環境の中でどうにか、日本向けの食糧を確保していますが、地球環境がこれだけ激変している中で不作、不漁は当然予想できること。となれば今の円安水準で国際市場で十分な買い付けができるのか、これが不安ネタです。
もちろん、これは食糧に限りません。ゴールドマンサックスは2か月ぐらい前から今年の原油価格は100㌦を予想し、スイスUBSも107㌦を予想しています。これは中国の経済回復による「資源爆食い」が起きると読んでいるからです。中国経済について悲観論が多いのは承知していますが、それはポジショントークであり、人口14億の国土と資源を持つ国がそう簡単には倒れることはないと考えるべきです。
3つ目は日本の景気回復力による物価上昇です。これは良い話です。日本でももうすぐマスクは取れます。(取るのに抵抗がある人が3/4に上るという調査には驚きましたが、これはあてにならないし、せいぜい夏までのやせ我慢でしょう。)マスク解放は気持ちも晴れやかになり、お出かけやショッピング、人との交際は増えやすくなります。口紅など化粧品や衣料業界に陽は当たるでしょう。北米の経済回復はコロナ規制が取れたところで本格化しています。北米は「物価高にめげず」であるのはこの心理的な正常化効果が長持ちしていることにあります。
また、日本に来る外国人入国者が相当増えてきています。訪日外国人の推移は22年9月が20万人、国が開いた10月が50万人、11月が93万人、12月が137万人です。まさにうなぎ登りなのです。これに近いうち、中国と韓国からの入国者が一気に来るとコロナ前2019年の月300万人の背中は見えてきます。
私はリーテールでは人材不足もあり、店が廻らない、というぐらいの状況が一部では起こりえるとみています。また多くの外国人から聞こえてくるのが「日本の物価はお財布にやさしい」です。ざっくりな感覚論ですが、食費は外食を含め、北米の半分、これが今の日本の物価水準です。つまり、外から見れば今の物価の5割増しでもまだ安いのです。
先日、日本の銀行の支店長と担当と話をしていて「ベア」が話題になりました。支店長が若い担当に「君、ベアなんて言う言葉知らないだろう?」と笑っていました。この春は期待できるよ、と支店長と私が笑いながら会話ができるのもある意味、「水準訂正」に入ったから、ともいえそうです。
高齢者からは物価高に「冗談じゃない」という声も出てきそうです。ですが、物価が上がれば株価も上がる、という傾向はあるのです。金利も上がるし、円も上がるのです。つまり、全部上向きに転換するのです。その中で対応を考えればよい話だと思います。
物価高には悪い物価上昇と良い物価上昇があります。日本の物価は長年懸念される状況にありましたが、良い物価上昇に代わってきていると考えをスライドさせています。悪い物価上昇なら円は安くなります。良い物価上昇なら円は高くなります。さぁ、どっちに転がるか、2-3か月後にその行方が見えてくるのではないかと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年2月21日の記事より転載させていただきました。