「中年男性が狂うのは独身だから説」を否定する

黒坂岳央です。

昨今、「独身のまま中年期に入った男性は狂う」という投稿がSNSを中心に取り上げられている。自分は過去記事「独身で40代以降になった人は狂う」は本当か?で狂いについて書いたことがある。確かに独身のまま中年期に入ると、気持ちは若いまま実年齢に追いつかない社会的ギャップが生まれるといった狂い方が存在する事実は否定しない。

しかし、あたかも「自分は独身だから不幸せ」「独身だから幸せになれない」といった論調は違うと思う。中年期で幸せ・不幸せかを決める要素については、多くの場合結婚の有無は関係ない。独身「でも」自分を幸せにできる力の持ち主でなければ、結婚すれば自動的にエスカレーター式に幸せになれる、とは思えないのだ。

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人生の幸福度は変化率で導き出せる

これは持論だが、人生の幸福度は変化率で簡単に出せる。変化率とは、文字通り変化する割合のことだ。

若い頃は壮絶なイジメとか、毒親から勉強漬けにされるとかされなければ、「人生つまらない。早く終わりたい」と思う子は大人ほどはいない。なぜなら子供は日々、変化率が大きい生活を送っているからだ。

精力的に人生を開拓しなくても、幼稚園が終われば小学生になり、次は中学、高校とドンドン段階を上がる。大学生にもなると、実家を離れて人生初の一人暮らしを始めたり、サークルで青春を謳歌したり、恋人ができたりと変化に次ぐ変化となる。社会人になったばかりも、見聞きする仕事は初体験ばかりでビビッドな生活を送ることになるから、何もしなくても変化率が高くすなわち刺激的で人生に飽きることはない。

問題は中年期に入り、今の延長線上にある人生の先行きが大体想像できるようになってからだ。仕事はそつなくこなせるが代わり映えせず、人間関係も変化なし。出世も収入も先が見えてしまった。こうなると人生の変化率は緩慢となり、やがて完全に停滞する。その一方で肉体的老化はネガティブな変化率を見せるとなると、辛い要素だけがクローズアップされてしまうだろう。

変化率で考えると中年期はそもそも必然的に変化が小さくなるから、人生の充実度、幸福度は必然的に小さくなっていく。結婚の有無はあまり関係がない。逆に独身中年期でも、精力的に充実した人生を送っている人はたくさんいる。彼らはビジネスや投資などで、自らの人生を変化率を高くもたらすための努力をし続けている。自主的に変化をもたらす働きかけ無くして、人生の充実はありえないと思うのだ。

結婚すれば本当に幸せか?

「結婚をすればライフイベントが激増することで変化率が高まるのだから、お前の理屈は否定されるのでは?」と反論したくなった人もいるはずだ。確かに結婚して子供ができると一年中イベントだらけになる。自分自身がまさしく独身だったら絶対にないであろうイベントが、ほぼ毎日のようにあるような環境に身をおいている。これ自体はたしかに正しい。

だが、結婚をして子供がいる中年男性が子供や家庭のライフイベントに参加していなければどうだろう?家に居場所がなく、仕事ばかりしているなら?そうなれば実態として独身とほとんど変わらないし、こういう人は結構多い。

よく「自分なんて家族にお金を渡すATM役だ」みたいに自傷気味に話す人がいるが、話をよく聞くとそういう人ほど仕事やコミュニケーション齟齬を理由に、家庭や家事・育児への自主的な参画率は高くないケースが多かったりする。こういうケースにおいてはあまり結婚の有無は関係ない。

仮に積極的に家事育児に参画する夫になれても、ライフイベントがあるから気が紛れて人生が即座に輝き始める、なんてことはない。家庭を持つ上ではどちらかといえば、忍耐力を要求される場面も多い。「子供に幸せにしてもらう」という受け身の発想ではなく、「子供を幸せにすることで、自分もその幸せを一緒に共有したい」といった思考でなければ難しいと思う。

人生の幸せは自分次第

この記事で取り上げられているブログをはじめ、「独身で中年期を迎えるとしんどい。人生はつまらない」といっている人を見ていつも感じるのは、「独身でも結婚していても自分を幸せにできる力があったか?」ということだ。そう問われると答えはNOな気がしている。

自分の人生を充実させられるのは、最初から最後まで自分自身しかない。独身で自分一人でも自分を楽しませたり幸せにできる力がある人は、子供や奥さんとその幸せを共有することで独身の一人の時より大きな幸せを共有しあえるに過ぎない。

自分自身、結婚して子供がいるが自分の幸福は彼ら/彼女らに依存していない。自分ひとりでやっている仕事や勉強は毎日がとても楽しく、これは家庭を持っていることとは関係がない。仮に独身でも、今やっている仕事や勉強の充実度は変わらないと思う。家庭をもって幸せになるには「妻や子供の笑顔=自分の幸せ」という感覚が必要だと思っている。

「独身だと狂う」というのはSNSのやり過ぎで他者比較病の一つかもしれない。結局、他人の芝生はどこまでも青く、結婚という制度も向き不向きがある。結婚は支え合いなのだから、自分ひとりで自分を幸せにできる人でなければ、支え合いなんてできないと思ってしまうのだがどうだろうか。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。