放送法の解釈についての総務省の調査結果が出た。これが当面の最終報告のようだが、焦点の大臣レクについて前半と後半ではニュアンスが微妙に変わっている。
本質的な問題は放送法4条の「解釈変更」ではない
当初のは「2月13日に放送関係の大臣レクがあった可能性が高いと考えられる」と答弁していたが、関係者の証言内容は次のようになっている。
<関係者A>(西潟課長補佐?)原案を作成した認識はある。他方、作成したレク記録は通常、上司に確認しており、出来上がったものは、これを踏まえたものになっている。
<関係者C>(安藤局長?)記録について確認を受けることはあったと思う。しっかり作成してもらっていた記憶があり、それほど多くの修正は必要なかった。個々の修正の有無について記憶は定かでない。
<関係者E>(平川参事官?)放送法の政治的公平の答弁に関しては、5月12日の委員会前日に大臣の指示を受けて夜遅くまで答弁のやりとりがあったことを覚えており、その前の2月に文書にあるような内容の大臣レクがあったとは思わない。
要するに2月に「放送関係の大臣レク」はあったが、6人が出席した政治的公平性についての大臣レクはなかったと思われる(3人が否定している)。課長補佐が「原案を作成した認識」はあるが、今回出ている文書はそれとは違うようにみえる。それは上司が修正した可能性があるが、上司は明確にいわない。
それはそうだろう。修正したといえば高市氏のいう「捏造」にあたり、虚偽公文書作成罪に問われる可能性があるからだ。任意の調査で、これ以上の供述を得ることはむずかしい。あとは捜査当局の強制捜査か国会の証人喚問を待つしかない。
放送法4条は検閲である
マスコミ各社はこの文書の真偽を問わないで、放送法解釈の変更の話ばかりしている。特に朝日新聞の社説は「放送法の解釈 高市氏答弁 撤回明快に」というが、総務省は「解釈を変更していない」と一貫して答弁しているのに何を撤回するのか。
そもそも1本の番組だろうと番組全体だろうと、政府が政治的公平性を判断するのは、憲法の禁じる検閲ではないのか。憲法学者にはそういう意見が多いが、新聞もテレビも御用ジャーナリストも、放送法4条を守れという。それは放送法が、放送局の既得権と一体だからだ。
かつては稀少な地上波を割り当てる放送局には規制が必要だったが、今やBS・CS含めると100チャンネルを越すテレビが、すべて政治的に公平である必要はない。そんな規制は、OECD諸国にはもうほとんどない。放送法4条を廃止してコンテンツ規制をなくすと、通信と放送の違いは(著作権を除いて)なくなるので、放送免許は廃止すべきだ。
電波の帯域を割り当てる無線局免許は必要だが、それが通信か放送か区別する必要はない。放送法2条では、放送とは「公衆によつて直接受信されることを目的とする電気通信の送信」で、電気通信に含まれるからだ。
放送免許を廃止して「帯域免許」のオークションを
電波の割り当ても、プラチナバンドであいている200MHz(地デジの伝送方式で33チャンネル)を区画整理し、オークションで用途を問わない帯域免許として売却すればいい(アメリカはそうしている)。
最新の伝送方式(H.265)を使えば1MHzでHDTV放送ができるので、これを1スロットとして売却する。アベマTVなら1スロット買うかもしれない。ワールドカップ中継にはサーバに数十億円かかったらしいが、東京スカイツリーを使えば、ほとんどただみたいなコストで関東一都六県に放送できる(電波利用料は廃止)。
政治的公平の規制がなくなれば「自民党チャンネル」や「維新チャンネル」や「創価学会チャンネル」などが地上波で放送できる。経営危機に苦しんでいる楽天モバイルも、10スロット買えば全国に通信できる。
ただしオークションで買うコストは、1スロット100億円ぐらいかかる。携帯電話会社にとっては営業利益の1週間分ぐらいだが、民放は1年分の営業利益が吹っ飛ぶ。ある程度は通信と放送の仕切りをつくって、民放にも既得権として6スロット(6MHz)ずつ与えてもいい。
開放された帯域にアベマやニコニコ動画などが入ってくれば、競争力のある日本のコンテンツが世界に発信できるかもしれない。新聞社やテレビ局が恐れているのは、こういうメディア業界の新陳代謝だが、それこそ日本経済にとってもっとも必要なものだ。