京都市の「シン・空き家税」は思惑通り機能するか?

総務省は3月24日、京都市から協議のあった法定外普通税の新設に同意したと発表した。いわゆる「空き家税(非居住住宅利活用促進税)」の新設である。京都市内の市街化区域にある住宅のうち、「その所在地に住所を有する者がないもの」が課税の対象になる。簡単に言えば、街なかで定住者のいない住宅が同税の対象になるということだ。

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京都市では、同税を新設する理由に、同市内の住宅不足による人口増加の伸び悩みや、空き家発生の抑制、将来の財源確保などを挙げている。

たしかに近年、空き家は社会問題化し、その対応をどうするかという点についてさまざまな議論がなされている。建付地の税軽減措置などを見直す動きも加速しているのが現状だ。

だが、京都市で新設される空き家税は、その趣旨がこれまで議論されていた空き家問題とは意を違えるものである。まず、いま全国で発生している空き家問題は、人口減少による「住宅あまり」や「不要な住宅の相続」から派生しているものだ。

人口が減り、これまで必要とされてきた既存の住宅に対する需要が減った。需要が減れば、経済的価値が低下する。経済的価値が低下することで、既存の住宅を相続などで取得する人の負担が増す。相続人の負担が増えることで、積極的な相続登記が行われず、所有者不明の不動産が増加していくという、負のスパイラルに陥っている現状がある。

そのため政府は、相続登記の義務化(2024年4月1日施行)、相続土地国庫帰属制度(本年4月27日施行)などの施策を講じ、人口減少にともなう空き家発生の抑制や所有者不明不動産発生の抑制に乗り出している。

つまり政府の施策をふくめ、これまで空き家問題を論じるうえで前提となっていたのは、「不要な空き家をどう無くしていくか」という点であり、京都市のように、住宅不足解消や財源確保に資する「価値ある空き家」についてはそもそも何も問題視などしてこなかったのである。

マスコミが空き家問題の本質を歪め、過剰な報道によってすべての空き家が「悪」の象徴になってしまったが、端的にいえば、市場ニーズがあり、高い税負担をしても所有していたい住宅については、別に空き家になっていようがなっていまいが社会的な問題など発生しない。管理の程度によっては外部不経済をもたらす場合があるが、特定空家への指定、租税インセンティブの適用から外すなど、ケースによってはシンプルな対応が可能だ。

その点において、京都市の条例案が可決し、総務省がそれに同意したことはある意味、意義深い。京都市のように空き家を価値あるものとして扱える都市では、この仕組みが不動産市場の活性化や、地域経済活性化に寄与する場合も十分にあり得るだろう。

しかし、空き家問題の本質を理解しないまま、この仕組みが全国に広まることは絶対に避けるべきだ。空き家問題対策は全国の自治体で取り組みやすいし、国の同意も得られることが分かった以上、他の市区町村でも同様の動きがあるかもしれない。

ただこの施策は、「住宅ニーズがある、不動産に価値がある」エリアでしか通用しない。ただでさえ所有負担が重い地方の住宅を相続などで所有した人にとって、これ以上の税負担など受け入れられるわけはないし、売ったり貸したりすることが可能な住宅なら、とっくにそうしている。売りも貸しも出来ない住宅の存在こそが、空き家問題の本質なのである。

京都市で導入される「シン・空き家税」の初年度収入は約8.6億円が見込まれている。令和8年以降に施行される予定だが、当初の思わくどおりに機能するかどうかは今のところ未知数だ。