戦国時代となるEV市場:メーカーの相当数が振り落とされる理由

カナダBC州の全新車販売に対するEV自動車の比率は15%を超え、カナダでは最も高い数字となっています。事実、街を見ると一年前のテスラオンリーから韓国製EV車がずいぶん目立つようになりました。ご承知の通り、韓国車のデザインは比較的マッスルで目立つクルマが多いこともあり、感覚的には陳腐化したテスラの顔つきやデザインより斬新に映ることもあるのでしょう。

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国を挙げてEV化を進めるという意味では欧州はカナダよりもっと先を走っています。その中で本丸アメリカが政治的にどこまでそれに答えるかが一つのポイントです。少なくともバイデン政権はEVを強く後押しし、また各州は工場誘致を通じてそれを受け持つという流れは確実に見て取れます。誘致に関してはジョージア州がリビアン オートに2000億円の優遇措置、また韓国 現代自動車にも2400億円の誘致優遇措置を決めています。ミシガン州はフォードに1300億円強、オハイオ州がホンダの電池工場に330億円などがずらり並びます。カナダ、オンタリオ州もフォルクス ワーゲンのギガ工場誘致に成功しています。

フォルクス ワーゲンの場合、独自の角型の同社内の規格電池生産を目指しており、同社への電池の供給をするサムスン、CATL、及び全個体電池開発のクワンタムスケープがサポートする形になります。

更にテスラの拡大も止まらないですし、日本勢もスバルが明白なEV化を進め、トヨタもその方向にあります。フォードは全社再編を目指しており、EV部門、内燃機関部門、商用車部門の三本を明白に分離管理する方向です。一方、ボルボは中国から欧州、日本向け輸出をすると明言しており、2025-26年が内燃機関とEVの販売台数の転換期と捉え、高級EV車から大衆EV車へのシフトが起きると同社は予想しています。

これ以外にも非常に多くのEV関連投資が先行しており、EV戦国時代と言って過言ではないと思います。

ではこれはEVメーカーにとって周到に準備するパラダイムシフトなのか、といえばそう簡単なものではないとみています。相当数が振り落とされる気がします。理由はメーカーごとの差別化がしにくい点もあると思います。

そもそもアメリカの誘致策は誘致するほうもされた自動車会社の方も相当のリスク含みを覚悟しなくてはいけません。それは過剰生産の罠に陥る可能性があるからです。電池だけでも21年の供給キャパの55GWhから30年には900GWhになると見込まれています。これは1000万台分の供給量です。ちなみにアメリカの22年の自動車総販売台数が1400万台ですので、輸入車分を考えれば膨大な設備になるのでしょう。

それでも現在の自動車メーカーのスタンスは「アメリカ市場を制する者、世界を制す」ぐらいの勢いで、フォードは明白にテスラを追い抜くとチャレンジ心をあらわにしています。そのフォードは今期のEV部門の赤字が3900億円に上ります。これは投資の前倒しが原因です。が、同社のように体力があるところはこれに打ち勝つわけで今後は横綱相撲が一つのマーケットシェア競争の決め手になりそうです。

もう一つは電池です。リチウムイオン電池も極めて高性能になってきている中、自動車向け全個体電池があと2-3年で出てきそうな勢いです。一般的には日本が研究開発でリードしているのでは、とされますが、世界どこも血眼になって研究開発が進んでおり、誰が先に出そうがそれを上回る性能の全個体電池がその後も次々出てくることになるとみています。個人的には2030年代に入っても電池の改善は引き続き進むのだろうとみています。

ところで弊社が所有する2カ所の駐車場のうち、1つはEV施設の整備が完了しているのですが、もう1つの駐車場に関して建物をシェアする管理組合から一緒にEVチャージャーを入れないか、と誘われています。私がコメントしたのは「それは構わないが、充電方式と将来の需要が読めないのでごく少数の台数分で結構」と申し上げました。60台分あるのでEVステーションは1割の6台分程度でまずは様子を見たいと思っています。理由は全個体電池になれば一回の充電で1000キロも走れるようになるわけで充電なんてごくたまにしかする必要が無いし、何処にも充電設備があれば設備の需要は少ないと読んだわけです。

つまり1年前のEV設備バンザイに対して私は早くもやや冷めた見方に代わっているのです。それはEVは確実に普及するものの、技術の進歩とEV車の進化の具合、更には着脱式を含めた電池方式や車のシェア化の流れが読めないため、投資に躊躇しているといったほうがよいでしょう。

もう1つは再三言っているように全自動運転の車が出たらクルマを所有するモチベーションが下がると思うのです。駐車するスペースも無駄、メンテするのも無駄、自分で運転するわけでもない、ならば呼べば来るタクシーやウーバーのような全自動運転車で全然OKなわけです。特別に長距離走る場合に1台専用車を持っていてもよいですが、使途は限られると思います。

北米ではクルマ2台持ちが多いのですが、多くは普段使いが1台とおしゃれ着的なクルマが1台だと思います。その普段使いのクルマが全自動のEV車に代わるのではないかと思っています。もちろん、そんな社会は5年では厳しく、たぶん早くて2030年、もしかしたら35年ごろかもしれません。ですが、それぐらいディファクトスタンダードが思いっきり変わりつつある戦国時代にあるというのがポイントです。

正直、私はEVチャージャーという周辺産業が業務の一部にあるわけですが、イケイケどんどんにはならず、「もうちょっと待つともっと何か違うものが出る」という待ちの姿勢を強めています。技術が成長、成熟する過程における必ず起きるプロセスですね。実に悩ましいものです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年3月27日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。