理想の死は「老衰」ではなく「ガン」

黒坂岳央です。

「寿命が尽きる2年前」という書籍を読み、久しぶりに痛快な気持ちになった。筆者は著者の書籍が好きで、2009年頃に「日本人の死に時 そんなに長生きしたいですか?」を読んで以来、すっかりハマってしまった。

一言でいえば「老化や病気に必死に抗えば抗うほど苦しむ」という話である。そして世間的に理想とされる「老衰」や「ピンピンコロリ」より、ガンこそがいいのではないか?と読み取れる記述があり、なるほどなと思わされた。

昨今、全身チューブだらけになって無理やり延命させられているのは、むしろ虐待に近いのではないか?という話が出ている中でとても説得力のある良書だと思う。

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老衰やピンピンコロリは本当に理想の死?

著者によると、一般的に理想的と思われがちな「老衰」や「ピンピンコロリ」も結構痛かったり苦しかったりするのだという。老衰の直前は衰弱しきった状態なので、そこに至るプロセスが大変という話であり、ピンピンコロリのクモ膜下出血や心筋梗塞も結構キツイのだとか。

さらにいえば、突然死は周囲の精神的苦痛もかなり大きくなる。老衰は仕方がないにしても、40代、50代でクモ膜下出血や心筋梗塞で亡くなってしまえば、「予兆が出たタイミングで、無理にでも病院に連れていけばよかった」とか「まだ亡くなるには早すぎる」といった悔みを生み出してしまう。つまり、死を受け入れる準備が整わない苦しさがあるというのだ。

そう考えると、老衰やピンピンコロリは本当に理想的な息の引き取り方とは言えないかもしれない。

ガンは放置が理想?

個人的に本書の内容を次のように読んで理解した。もしかしたら、著者が主張したかった真意からズレている点があるかもしれない。その場合は自分の読解力不足や解釈のレベルが稚拙だったと考え、どうかご容赦頂きたい。

死に方を選ぶことは容易ではないが、理想に近い一つの形が「ガン」なのかもしれない。ガンは何も治療をしなければ、たいてい2年間は持たない。だが、終わりのタイミングは老衰や突然死に比べて大体決まっている。

発見した時にすでにどうしようもない段階ということなら、下手に抗がん剤や無理に延命治療を試みるのではなく、そのままガンの進行に任せて自分も周囲も最後を受け入れる準備をすることができる。もちろん、ガンを放置しても抗がん剤で徹底抗戦をしても、どちらにしても苦しみは生まれる。だが、前者の方がいたずらに苦しみを増大させずに済む局面もあるだろう。

これが余命わずか1ヶ月というなら半狂乱になる人も出るだろうが、2年となれば落ち着きを取り戻せる人も出てくるだろう。残された時間をどうすごすか?そこを起点に第2の人生を考えればいい。

人生を生きる時間の価値は、明らかに「量より質」である。大嫌いな上司の元で、まったく興味が持てない仕事で8時間過ごすより、愛する人と一緒にすごす10分間の方が圧倒的に価値が高いのは言うまでもないだろう。

人生の質は過ごす時間の質で決まる。もとい、終わりが決まってからの方が時間の過ごし方をそれまでになく、真剣に考えることで輝きを増すと言えるかもしれない。過去に見たNHKドキュメンタリーでまさに若くしてガンが判明し、抗うことをやめて残りの時間を精一杯好きな趣味や気の合う仲間と過ごして笑顔で旅立っていった番組があった。本人の真意は周囲が預かり知ることなどできないし、テレビ番組用に切り取られた部分はなおさらその傾向が強まる。しかし、そこを考慮して考えても死を受け入れて残りの時間を精一杯輝かせる姿は、とても美しく思えた。

だが難しいのは、誰も死に方を選ぶことはできないということだ。生きているということは常にリスクを隣り合わせである。ただ一つ、メリットがあるとすればそれは死や老化にむやみに抗い、人生の絶対的時間をやたらと増やそうとするのは間違いだったのでは?という問題提起だ。

周囲が無理に延命治療をしても、当の本人は望んでいない可能性がある。医療の進歩は乳幼児や感染症による死者を減らす点においては必要な技術である。しかし、同時に終末の時間を苦しみで長引かせる危険性もはらんでいるのではないだろうか。少なくとも、自分は本書を読んだことでジタバタ抵抗せず、いざという時が来たら悟りを開いて自然に身を任せたいという心持ちになった。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。