大阪に赴任して1年が経った。昨年の3月25日の閣議決定後に内示が出て、4月1日に大阪に着任という慌ただしい転居だった。したがって、東京の自宅を処分する時間もなく、多くの荷物を残したままだった。電気代、ガス代、水道代、インターネット代などの基本料金なども2重払いが続いていた。もちろん東京に出張しても自宅に泊まるので、宿泊代は出ない。
最近ようやく、家を片付け、売りに出した。そこで、4月以降はホテルに宿泊するので、ネットでホテル検索をしたが、観光客が戻ってきたのと春休みのためか、思っていたよりもはるかに宿泊料金が高い。
研究所の規定では、私の東京での宿泊代は1泊1万5千円弱だそうだが、テレビコマーシャルで流れているようなビジネスホテルでも1泊2万円以上はするし、名の通ったホテルは1泊3-7万円である。海外のホテルなど安全を優先すると目玉が飛び出すような高額だ。
いつ策定された規定かわからないが、時代に合わない陳腐な規定でも、それを順守するのが事務担当の役割なので、掛け合ってみても柳に風だ。仕方がないのだが、出張に行くたびに赤字になる規定というのはいかがなものか?
こんな陳腐な規定では、働いている人も元気が出ない。出張で疲れるうえに赤字なのは、国のシステムエラーだと思う。最近、ある教授が、急行など走っていないのに規定では「出張は急行料金しか認めない」と記載されていると嘆いていた。おかしな国、日本だ。体も心も疲れて元気が出ないから、日本の大学の世界ランキングの低下は止まらないのだ。
大学の地盤沈下は、日本という国のあらゆる産業分野における地盤沈下につながってしまう。それが、現実となってから久しいが、国は危機意識に欠けるし、無策に等しい。少子化対策と同じだ。これも現場を知らない政治と行政の失策の結果だ。
国家公務員減らしという実効性の疑わしい行政改革、そして、大学の独立行政法人化に取り組んだものの、完全に裏目と出て、研究者の研究に費やす時間とやる気を削いでしまった。競争力強化という謳い文句は吹き飛び、もはや世界的な競争から取り残された感がある。
最近は、スタートアップ企業の支援が重要だと言うが、企業を立ち上げて大きく育てるための研究者育成を怠っているのだから、種もないのに水を撒いて植物を育てると言っているようなものだ。そして、企業を育むための方策も制度設計もないのが現状だ。
医薬品の分野など、多くのステップと時間と予算が必要だが、コロコロと2-3年ごとに代わってしまう役人によって方針が変わる。発芽して茎や葉が育っても、見事に枯らせてしまうのが行政の得意技だ。新しい役所を作っても、寄せ集めで機能不全になっていることを理解していない。
日本はどうして沈没しつつあるのか、その反省ができない限り、日本は蟻地獄に落ちていく。心ある政治家が出てくることを願うばかりだ。
PS: 八重洲ブックセンターが今日で閉店するとニュースで流れていた。私は2011年3月11日、このブックセンターに救われたことを忘れない。私は東日本大震災時に東京駅の近くにいたが、2回の大きな揺れの後でも山手線は動いていると信じ、東京駅に向かったが、すべての交通機関が止まっていた。そして、携帯電話が全くつながらず、家族や研究室の人たちの安否もわからず、途方にくれていた。そんな時に、八重洲ブックセンターの前を通りかかったら、店の固定電話を利用させてくれると張り紙があった?ので、駆け込んだ。数人が並んでいたが、電話を利用することができて、自宅と仕事場に連絡を取ることができた。自宅に帰りつくまでは遠い道のりだったが、無事を確認できたことで、精神的な負担は大きく軽減されていた。八重洲ブックセンターの方々、ありがとうございました。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2023年3月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。