毎日14時間、週7日近くも最高機密文書に接している。どんな気持ちになるか分かるか?
イラクにおける米軍の戦争犯罪に関する機密文書を、告発サイト「ウイキリークス」のジュリアン・アサンジに渡したマニング元上等兵の言葉だ。そのマ二ングとのチャットで、その言葉を聞いた超一流ハッカーのエイドリアン・ラモンと、筆者は長時間対談した。サクラメントの彼の自宅にある秘密基地だ。
ラモンはマニングが機密情報を漏らしていることを米軍諜報に通報、その結果、マ二ングは逮捕され、35年の禁固刑を受けた。筆者との対談後、しばらくして、ラモンは変死した。毒殺という話も出た。陸軍諜報だけでなく、彼の母親から問い合わせを受けた。
筆者はアサンジとも、ストックホルムとロンドンで複数回対談した。唯一の日本人ジャーナリストだ。彼の言い分は、あくまでも、マニングから頂いた機密情報の公開は「米軍の蛮行を公開して、再発防止する。世界のため」というスタンスだった。
毎日毎日、機密文書と向き合って、誰かに「自分が持っている秘密を知ってもらいたい」という個人の衝動が切っ掛けで、米軍の権威を失墜させ、反米勢力を喜ばす事件が起きた。漏洩の動機は「世直し」「正義のため」「プライバシー保護」ではなかった。
別の機密情報漏洩事件。NSA とCIAの仕事をしていたエド・スノーデン。筆者は唯一の日本人ジャーナリストとして彼ともモスクワで、複数回対談した。
今回、逮捕された空軍州兵のケースでは印刷した紙を持ち出したが、エドの場合はUSBだった。ハワイの機密組織から持ち出すのは困難を極めた。USBやSDカードなど電子的な保存媒体の持ち出しは禁止。監視の注意を逸らすことで、没収、逮捕を免れた。
動機は簡単な「正義のため」「プライバシー保護」だった。彼は国家安全保障のために、ある程度までの盗聴などは許す。だから米国中から集まってきた天才の中でもさらなる秀才。その頭脳を生かしてNSAで仕事をしていた。
だがある日。自分のPCが誰かによってリモートでスイッチが入り、自身の私生活が覗き見されていることに気が付いて。米政府に反旗を翻した。
ウィリアム・ビ二―(写真、緑のシャツ)。NSA(国家安全保障局)で、技術担当をやっていた上級職の職員だ。映画「スノーデン」で、ニコラス・ケイジ演じる組織の主のような人物のモデルと言われる。映画でも技術アドバイザーを、実際にやった。
筆者に対しても素晴らしい実演を、オランダのアムステルダムでやってくれた。スノーデンが告発を決める切っ掛けになったこと。自宅に置いたPCのスイッチが入っていないのに、リモコンで”天の上” の誰かがスイッチを入れる。そしてPCの蓋部分の上部カメラを使い、映像情報を収集する。それが可能ということを実演してくれた。病気で足の切断という大変な障害を乗り越えて、筆者のためにやってくれた。
それ以降、筆者は自分のPCの上部カメラにガムテを貼って「目隠し」している。遠隔操作で誰かに勝手に私生活を覗かれたくないのは当然だ。
本当に衝撃的な驚きだった。
エド・スノーデンから頂いた日米の「諜報作戦」の詳細は、世界初のスクープ報道だった。エドは米国の機密情報をどこまで公開するか小生のようなジャーナリストに任せると言った。ウイキリークスのジュリアン・アサンジは、自分がジャーナリストで編集長。全部出すことを、自分で既に決めていると言ったのとは好対照だ。
筆者が例えば「日本の原発などテロ攻撃可能性がある場所などの情報は公開するべできはないだろう。テロリストが喜ぶだけ」と言った。ジュリアンは「いや大丈夫、被害は出てない」と否定した。
その時既に筆者は、日本原発の脆弱性を示す情報が出るのを知っていた。万が一の時は日本の半分が「地獄」になる。被害が出てからでは遅い。ジュリアンの言葉に筆者は首を傾げた。
それ以降、国家安全保障とはなにか?に広がるが、エドの告発の切っ掛けはあくまでも、プライバシー保護が主目的。安全保障の理由があろうがなかろうが、個人情報を米政府が入手して、もしかすると利用するかも知れないということは許せないというものだった。
詳細はまだ不明だが、今回の空軍州兵の漏洩やマニングの動機、自分が「いつも欲求不満になっている」「寂しい、相手にしてもらいたい」とか、友人仲間に「誇りたい」というようなものとは違う。
反論は当然あるが、エドの漏洩はかなり正当化できる。
さらにエドが言ったこと。collet all 全ての情報を入手する。NSA はなにかあれば大変なことになるとして、ほぼ全ての情報を入手する。個人の電子メールなども含まれる。
ドイツのメルケルの通話まで傍受していたと問題になった。一応、例えば five eyes アングロサクソン5ケ国に取り決めはあるが、同盟国でも、傍受し合うのは当然のことだ。
筆者はユタ州にNSAの超巨大機密施設があることを突き止めた。逮捕されるので、中に入って自分の目で見れなかったが、施設内のお化けサーバーをみれば、その気が遠くなるくらいのデータ量が理解できる。
今回の空軍州兵のケースでも指摘されている。米諜報は「やり過ぎ。収集し過ぎ」そして情報に接する人間の数も異常な数、その多くが世界をあまり知らない20代の若者。これが漏洩の主要因の1つだ。
もう1つの歴史を揺るがした「ペンタゴン文書」漏洩事件。筆者はカリフォルニア大大学院に行っていた。住んでいたバークレーのお隣さんだったダニエル・エルスバーグ(以下の写真、ブルーのシャツ)。自宅やロンドンでも複数回会って、話を聞いた。
ベトナム戦争の実態が、米政府の発表と違う。国防総省の高官として米政府は許せないとして、刑務所入りを覚悟。家族も駆り出して機密文書をコピーしまくり、信頼できる米の大手新聞 ワシントンポスト紙に渡した。ウイキリークスやスノーデン事件と違って電子的な作業ではなく、今回とほぼ同じようにアナログの「紙」による持ち出しだった。
2つの大戦を経て、超大国として、世界に君臨した米国。相手が悪魔の共産主義だと思い込んで、実はべトナム人の民族自立運動を潰す結果になっていることが暴露された。直接ではないが、べトナム戦争の終結にも一役かったとも言われる。
彼の言葉で一番印象に残ったこと。
「自分は誇るべき民主主義国家米国の一員として、自分の政府が事実でないことを言うのは許せない。短期的には世界における米国の評価は落ちるが、最終的には米国と人類全体のためになる」
これもエドの告発と同じように、かなりの程度まで正当化できる。米政府は公開されないように、ワシントンポスト紙に圧力をかけた。だが、世論もダニエルと共に同紙を支援。結局、ダニエルは刑務所入りを免れた。
米国がまだ健全である証拠だ。
さらに「パナマ文書」と基本は同じ。世界中の大金持ち、気が遠くなるような資産をもつ企業が、節税、脱税目的で、いかに卑怯なことをやっているか、カリブ海などの会計監査会社から、機密文書を持ち出したスイスの銀行家。ルドルフ・エルマー。彼ともジュネーブで数日間、密着・対談した。彼も基本は紙による持ち出しだったが、動機は明白。世界から「不正をなくす」という正義感だった。
その流れでEU評議会責任者とも親しくなり「パナマ文書」を公開した謎の人物に辿り着いた。生死がかかっているので、詳細はいまだに書けない。
今回、機密文書漏洩で逮捕された一等空兵のテシェイラは21歳。空軍の情報保守・安全運用に関する仕事で、国防総省本省の機密ネットワークへのアクセスが可能だった。
詳細はまだ不明だが、毎日のような単調な仕事ばかりで、内容があまりない、飽き飽きしていた。
コミュニテイ・アプリの1つ「デイスコード」。ゲーム同好の士が集まる特殊なネット空間は、独特な世界。会ったこともない赤の他人だが、チャット仲間とは妙な連帯感があった。「ねえ、みてみて、俺はこんな機密情報を持っている」などと、仲間への自慢をしてみたかった。
今回逮捕された空軍州兵は「デイスコード」では人気者だったという。
10月から漏洩は始まってやっといまになって逮捕、起訴された。「デイスコード」運営者が協力したので、これでも早い方だった。あまりあることではないが、メンバーの個人情報を捜査当局に提供した。非協力なら、まだ時間がかかった。
この一等空兵。浅薄な反戦思想もあったらしいが、機密情報がどのように1人歩き、露中などが喜ぶことなど、さらに、一部はロシア諜報が改ざんしてプロパガンダに使うなどなど、深く考えていなかった。21歳の世界知らずには分からないことだ。
重要なこと。今回漏洩された文書の殆ど「真正」だった。最初は騒ぎにならなかったと言われる。つまり、現時点で出ているモノ「以前」により重要な、つまり露中がさらに喜ぶような情報が既出している可能性も高い。
この種の情報漏洩で重要なことはどこまで「公益性」があるかだ。漏洩は違法、それは許せないこと。だが告発したことで世界がよくなれば、別論が登場する。結局、差し引きで判断する。あくまでも「公益性」とはなにか?の議論で、結論は永遠に出ない。
漏洩で人が死ぬのはほぼ間違いない。
何とか、このような漏洩事件が起きないように、最善の防止策、抑止になる重い刑罰が望まれる。