学生の関心事の如実な推移
日経新聞とマイナビ(就職情報)が24年3月卒業予定の大卒者を対象にした就職希望調査をしたところ、ニトリ(家具、インテリア)が第1位に躍りでました。上位の常連だった生損保、メガバンク、商社を抑えてのトップです。ニトリは前年も3位でしたから、実力でしょう(以下、文系男女総合)。
4位にはユニクロ(衣料品)が昨年の13位から順位を上げ、トップ10に入りました。高齢世代には聞きなれないPLAN・DO・SEE(ホテル、レストラン、宴会の運営企画)が昨年の12位から10位に上がりました。若い世代がやりたい仕事が明らかに変化している。人気企業の変遷に驚かされます。
創業はニトリが1972年、ユニクロが1974年と企業年齢が若く、PLAN・DO・SEEは1993年です。日本にも若い企業が育ってきている。共通するのは、家具・インテリア、医療、ホテル・宿泊など、身近に感じられる職種に人気がある。世界市場を制覇した感じのある米国のGAFA(グーグル、アマゾンなどのネット、デジタル)とは、明らかな断層があります。
一方、学生の就職対象からどんどん外れてきた新聞・テレビ(民放)という伝統メディアの退潮には著しいものがあります。上位100位には、かつては常連だった朝日新聞、読売新聞、日経新聞の名はなく、民放テレビも今回は、1社もありません。
最近までは、新聞・テレビは全国統計から消えても、関西、東海といった地方別統計には、どこかに残っていました。それが今回は、「東北の宮城テレビ」を除くと、地方紙、地方テレビ局も姿を消しました。
NHKは36位に顔を出しています。NHKは政権、政府の影響力が強まり、その指示に従っていれば、存続を政府が保証しているような機関であり、新聞・民放と同列に論じるのは無理でしょう。
「新聞・テレビの全滅」は予期したことではあっても、「ニトリ1位、ユニクロ4位」と対比しますと、時代の移り変わりが加速しています。急成長、大量採用、入りやすい、仕事の内容が分かりやすいという理由のほかに、日本の若い世代が持つ関心のレベルが身辺雑記的業種に傾斜してきているのでしょう。
業種別統計の「マスコミ(放送・新聞・出版・広告・芸能)」でも、NHKが載っているだけで、新聞・テレビは全滅です。ソニーミュージック、ポニーキャニオンなどが上位です。新聞・テレビという区分が必要で、ジャンルが異なり、共通性がないのに、「マスコミ」という区分でひとくくりにするのは、おかしいことはおかしい。
それはそれとして、「アミューズメント・レジャー」業界をみますと、愕然しました。「よみうりランド」がなんと10位に入っています。読売新聞の子会社(グループ会社)で、従業員155人の小企業で、遊園地、ゴルフ場経営が主な業務です。
1位はオリエンタルランドで当然としても、3位に東京ドームも入っています。東京ドームは、読売新聞傘下の「読売巨人軍」の本拠地です。株式は三井不動産80%、読売新聞20%です。ここでも、子会社の企業名があっても、親会社の読売新聞の名は全統計から外れています。
子会社、関連会社の名は載っているのに、肝心の親会社の名はない。これまでこんなことは恐らくありませんでした。それほどまで、新聞の就職人気が落ちてしまっている。
政治、経済、社会、国際問題を考えるジャーナリズムのような小難しい業種は敬遠されている。就職するには、そんなものよりエンタメ路線が分かりやすいということでしょう。
新聞を購読する大学生はほとんどいないようですから、その存在も眼中に入らない。テレビよりも、「いつでもどこでも見られるネット」の時代なのでしょう。NHKのテレビも「1週間で5分以下」の人が半数という調査統計があるそうです。NHKを見ているのは中高年以降で、若い世代はまずみないという二極分化の結果らしい。
もっとも、ニトリのインターンシップ(職場体験)には毎年3万人以上が参加し、学生の大きな支持を集めおり、インターンシップ採用、運営の努力がブラディングングを左右する時代だそうです(日経)。ユニクロも同じでしょう。職種、職場も多様で、身近な会社体験ができる。
問題は、就職人気と就職難易度の関係です。就職人気が上位だからといって、就職難易度が高いわけではない。難易度は、企業別就職者数と大学入学時の偏差値を加重平均して比べる。
ある調査によると、難易度の上位10社には、外資系コンサルタント、大手商社、メガバンク、生損保などで占められています。東大、京大、早慶などからの採用が多いと、難易度が高くなる。新聞では日経が入っているとか。
就職統計には、様々な解釈ができるにしても、「ニトリ1位、ユニクロ4位」という統計は、明らかに時代の変容を象徴しています。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2023年4月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。