ビッグデータが示す昨年後半から続く超過死亡の要因

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図1に示すように、日本で2021年以降に観察された超過死亡は、ワクチン接種の開始時期やコロナの流行に同期しているが、コロナ感染による直接死亡(コロナ死)よりも、コロナ死以外の原因で死亡する割合が多い。

日本でコロナ死が最も多かった2022年10月1日から2023年1月31日までの期間においても、人口100万人あたりの超過死亡とコロナ死の割合は459人対182人で、超過死亡はコロナ死の2.5倍であった。超過死亡には、コロナ死では説明できない原因で亡くなる人が含まれていると考えられる。

図1 日本における月別超過死亡とコロナ感染による死亡の推移

一方、諸外国の多くは、2020年から2021年にかけては、超過死亡の多くはコロナ死が占めていたが、2022年の後半になると、日本と同様に、超過死亡がコロナ死を上回るようになった。

図2には、検討した33カ国で2022年10月1日から2023年1月31日の間に観察された超過死亡とコロナ死の比を示す。超過死亡がコロナ死よりも少ない国は、3カ国(9%)のみで、ほとんどの国では、日本と同様に超過死亡がコロナ死を上回っている。

図2 33カ国における超過死亡とコロナによる死亡との比

超過死亡の要因は決してひとつではなく、コロナ死とそれ以外の死亡を含む複合的なものと考えられる。わが国における2022年の超過死亡が11万人を超えたことに対する国立感染研からのコメントはコロナ流行が影響した可能性があると漠然としたものであった。

これまでも何回か触れてきたように、超過死亡とワクチンの追加接種回数には相関が見られることから要因のひとつとしてワクチン関連死も考えられる。ところが、厚労省は超過死亡の増加に関するワクチンの関与を否定している。

2023年3月9日に開催された参議院厚生労働委員会で、川田龍平議員が、”超過死亡の増加にワクチン接種の関与があるか”と質問したところ、佐原康之健康局長は、“感染研のデータによると、超過死亡はワクチン接種が始まる前から見られており、時系列から考えてワクチン接種との因果関係は考え難い。”と答えている。この説明に納得し難いことは、アゴラでも触れたことがある。

超過死亡の増加にワクチン接種の関与はあるか?
コロナの流行が始まって3年が経過したが、2020年には多くの国で超過死亡が見られたのに、わが国で観測された死亡数は予想される死亡数より少なく過少死亡を生じた。ところが2021年には、一転して、5万人に達する超過死亡が観測され、昨年は...

図3には、Our World in Dataに掲載されたデータを用いて、各国の2022年10月1日から2023年1月31日までの超過死亡と追加接種回数との関係を示すが、相関係数0.54と両者の間には正の相関が見られた。ちなみに日本は39カ国のなかで、ワクチンの追加接種回数はチリに次いで2位、超過死亡はドイツ、オーストリア、英国、フィンランドに次いで5位である。

図3 超過死亡とワクチン追加接種回数との相関

超過死亡のように、いくつかの要因の関与が考えられる場合に、重回帰分析によってそれぞれの要因がどれくらい超過死亡に影響しているかを分析することができる。すなわち、重回帰分析で超過死亡を目的変数、ワクチンの追加接種回数やコロナ死亡者数、コロナ感染者数を説明変数とすれば、ワクチンの追加接種が超過死亡に関与しているかを明らかにすることができる。

Our World in Dataには重回帰分析に必要な目的変数や説明変数が含まれており、今回は以下のデータを用いた。

  • 目的変数Y :2022年10月1日〜2023年1月31日の人口100万人あたりの超過死亡
  • 説明変数X1:2022年12月初旬の人口100人あたりの追加接種回数
  • 説明変数X2:2022年10月1日〜2023年1月31日の人口100万人あたりのコロナ死
  • 説明変数X3:2020年1月12日〜2022年9月30日までの人口100万人あたりのコロナ死
  • 説明変数X4:2022年10月1日〜2023年1月31日までの人口100万人あたりのコロナ感染者数

X3は、コロナ感染にハイリスクのグループはすでに2022年10月1日以前に死亡しており、そのことが超過死亡に影響した可能性を検討するために設定した変数である。X4は医療の逼迫などの調査期間中のコロナの流行が超過死亡に及ぼす影響を検討するために設定した。

Our World in Dataには120か国以上のコロナ感染者数、コロナによる死亡者数、ワクチン接種回数、全死因による超過死亡などの今回の検討に必要なデータが含まれている。この膨大なデータから、人口500万人以上の国、必要なデータが全部網羅されている39か国を選んで今回の検討を行った。

図3に、今回の検討に用いた39カ国を記した。中国は自国製のワクチンが主で、mRNAワクチンを使用していないことから今回の検討には含めなかった。台湾の一部のデータはOur World in Dataには含まれていなかったが、台湾CDCのホームページから必要なデータを補った。

表1にエクセルを用いて検討した重回帰分析の結果を示す。有意F値が0.003と0.05以下であるので有用な回帰式が得られたと判断した。4つの説明変数のうち、ワクチンの追加接種回数を示す説明変数X1のみがP値が0.04と有意な値であった。また、説明変数の影響度をみるにはt値で判断するが、追加接種回数のt値が2以上であることより、追加接種回数が超過死亡に影響したと考えることができる。他の変数は、P値、t値ともに有意な値は得られなかった。

表1 超過死亡に関わる要因を重回帰分析で検討した結果

昨年来から続くわが国の超過死亡の要因についてアゴラの誌上でも議論が続くが、データに基づいて十分な検討ができているとは言い難い。

先日も、松野博一官房長官が、ワクチン接種が超過死亡に関係するかという質問に対して“国内外の研究結果を踏まえながら審議会で議論が行われている”と答えるのみで、政府からの見解も示されていない。さらに、超過死亡の要因の分析に必要なワクチン接種回数別の死亡率に関しても、わが国ではデータが公開されていない。

超過死亡の増加は、全世界に共通で、わが国のみに見られているわけではない。そこで、Our World in Data に公表されているビッグデータを用いて超過死亡の要因を検討したところ、重回帰分析の結果は、ワクチンの追加接種の回数が多いほど、超過死亡が多いことを示した。コロナによる死亡数、さらには、医療逼迫などに影響すると考えられる調査期間中のコロナの感染状況は、超過死亡に有意な影響は与えなかった。

最近、WHOが健康な小児や60歳未満成人へのコロナワクチンの追加接種を推奨しないという指針を発表したのにもかかわらず、わが国ではこれらの対象者に対してもワクチン接種が推奨されている。超過死亡の増加にワクチンの追加接種が関与するかは、国民がワクチンを接種するにあたっての重要な判断材料であるだけに、データに基づいた政府の見解を至急示すべきである。