ASEAN経済圏のハブを目指すタイが動き出した

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年初から始まった日本人駐在員の逆流

昨年の10月、タイはいよいよコロナに関する入国規制をすべて撤廃したが、その後、タイの観光産業は急回復を始めた。

一方、観光客だけではなく、実はバンコクの日系企業の間でも異変が起こっていた。日系企業がコロナ禍の間に一旦帰国避難させていた駐在員を一斉に戻し始め、まだ年明けというのに日系賃貸仲介業者は住宅を探す駐在員への対応で大忙しであった。

また、これに便乗して日本人が多く住むエリアの家主も強気に転じて家賃を値上げするようになり、バンコクの不動産市場にも一部明るさが戻ってきつつある。もっとも、住宅不動産市場全体に活気が戻りつつあるとはまだいえず、特に新築市場は今も底値圏を低迷しているのだが…。

ただ、筆者はこれを見て、タイ経済に何かが起こりつつあるのかもと感じていたのだが、最近の経済指標を見てどうやら大きな流れが始まろうとしているように感じるのである。

タイの外資で独走を続ける日本企業

さて、BOI(タイ投資委員会)の報告では、昨年のタイへの外国企業による投資は56%も増加したとのことだ。コロナ禍で急減していた投資だが、昨年から一挙に回復が始まったことになる。

この中でトップを走るのは当然、日本勢である。具体的には外国企業による総投資額1,290億バーツ(5,031億円)の内、日本企業が30%の395億バーツ(1,541億円)を占め、最近増えてきたとはいえ、後を追う2位中国の233億バーツ(909億円)をまだまだ引き離している。

そして、BOIから今年第1四半期の数字が出たところだが、外国企業による投資はさらにスピードアップし、総額で330億バーツ(1,287億円)となり、その中でも特に日本勢のシェアが増えて122億バーツ(476億円)と全体の37%を占めるに至っている。

もっとも、中国も110億バーツと日本にかなり追い付いてきているのだが…。

製造業中心からインフラやサービス、ハイテクにシフト

ところで、その中身を見ると、今回の外国企業の投資対象がインフラやハイテク分野で増えており、従前のような工場を中心とする単なる製造基地というより、タイ政府が注力しているインフラ、エネルギー、デジタルやソフトウエアといった以下のような産業に移行しているようだ。

  1. タイ湾内での石油掘削事業
  2. タイ国内の鉄道事業
  3. 天然ガスのパイプライン建設
  4. 電気自動車エンジニアリングサービス
  5. デジタルサービスのプラットフォーム
  6. インターナショナル・ビジネスセンターサービス

実際、ここ数年、タイバーツの高騰でパナソニックなど日系製造業の一部ではマレーシアやインドネシアといったASEANの他の国に工場を移すところが出てきており、タイもそろそろ中国と同じように製造基地としてやっていくのは限界が来ているのかもしれない。

一方、タイは地政学的にも人口7億人を抱えるASEAN経済圏の中心にあることから、政府はそのハブとなるべく港湾や空港、鉄道などのインフラ整備を急いでいる。実際、最近はこれまでシンガポールに本部を置いていた外資系企業が、続々とバンコクにアジアの本拠地を移しつつあるということを筆者は聞いている。

ASEAN各国 外務省HPより

今まで長きにわたり「中進国の罠」を抜け出せなかったタイだが、もしかすると来月14日の総選挙で経済音痴だった軍事政権が交代し、タイにもいよいよ現状打破の異変が起こるのかもしれない。