黒坂岳央です。
「リモートワーク社会でも、社内政治に奔走するアメリカの職場」という課題を浮かび上がらせたのは、アメリカ・ペパーダイン大学グラツィアディオ・ビジネススクールの調査である。
同調査を詳細に取り上げたロサンゼルス・タイムズによると、ごますり、噂流布、非難合戦、手柄の横取りなど「有害な人」はリモートワーク以降も依然として存在しており、調査対象者の25%は「さらに悪化」と答えている。
「日本企業はドロドロしている一方、アメリカはさっぱりして実力主義で働きやすい」というイメージを持っている人も少なくない。だが、その実態はどこの国の職場でも社内政治というドロドロの人間関係から抜け出すのは容易ではないのかもしれない。筆者も昔は米国系企業複数社で働いた経験があるのでその立場から意見をあげたい。
社内政治はゲームルール
筆者がアメリカ系企業で特に仲の良かった外国人社員と働いている時に、相手から言われた忘れられない言葉がある。
ある時、自分は学歴やMBAなどの労働市場におけるシグナリング、社内政治力の機能性について「こういうものではなく、本来は仕事の成果物で冷静に評価されるべきではないか」と話を振ったことがある。それを聞いた相手からこう返された。「そこも含めて勝敗が決まってしまうゲームに自分たちは参加しているんだよ。政治力はルールのひとつなんだ」という趣旨の回答だったと記憶している。
相手からの反応に自分は驚いた。相手もうっすらと理不尽さのようなものは感じているのに、自然に、そして完全に受け入れている。その瞬間、自分自身の判断の若さを自覚した。たとえ理不尽でもそれが機能しているなら、その不文律を理解し、うまく立ち振る舞うのが「大人」なのだと理解した。
そしてこのゲームルールは米国や日本だけでなく、他の国家でも程度の差こそあれ機能している本質的なものだろうと感じる。
会社はチーム戦で、権限の強さは明確に差がある。自分自身がそうだったように、いっかいの平社員がより強い権限を持つ相手を変えることは容易ではないし、むしろなくてはならない。上司やマネージャーは判断、決断する権限が与えられている代わりに、結果の責任を取る立場でもある。強権的な企業ほどその傾向が強まる。だから上に気に入られるかどうかは、その会社内でのキャリアにおいて大変大きなファクターになるのだ。
「社内政治なんておかしい!」と憤るより、これはゲームルールだと受け入れ、その上で上手に立ち振る舞う方が「賢い」かもしれない。ここは価値観で揺れるので絶対的な解はないが、少なくとも日本を離れて海外で働けば直ちに解決する問題でないことは明確になったと思う。
仕事で人間関係から逃れることはできない
個人の専業金融トレーダーなどでない限り、仕事で人間関係から逃れることはできない。これが筆者が行き着いた答えである。それは起業して経営者になっても、ソロプレイヤーであるフリーランサーになっても変わらない。
経営者になって従業員を雇う場合は、むしろ会社員の頃より人間関係はより濃密になる。ステークホルダー(利害関係者)が広がるためだ。経営者は従業員が納得の行く人事評価をし、時には相手の健康状態や家庭について希望されたら相談に乗ることもある。さらに取引先相手の社長や担当者との関係もできる。
ソロプレイヤーのフリーランサーでも状況は変わらない。クライアントワークなら、相手から次の仕事を得るために快適なコミュニケーションと満足度の高い成果物を納品する必要があるだろう。YouTuberも売れ続けるには、視聴者の反応やニーズを無視することが大変難しいのが現実だ。
もちろん、すべてをネガティブに捉える必要はない。人間関係から逃れることができなくても、社長やフリーランスは付き合う相手を選ぶことができるようになるから、自分と価値観の近い人を揃えれば少なくとも快適になることは間違いない。だがそれでも尚、人間関係の悩みを根絶することはできない。起業した場合は社内政治というより、今度は社外政治力が問われることになる。
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ペパーダイン大の調査は仕事に完全なるユートピアなどないことを教えてくれただろう。これはネガティブな考え方ではなく、働き始めた初期の段階で可及的速やかに受け入れ、そこを織り込んでうまく立ち振る舞いなさいという教訓に思える。人は人から逃れることは極めて難しいため、逃げるのではなく上手に対応できるハンドリングスキルを得ることが唯一の手段なのではないだろうか。
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