外国人増加に全面依存した「将来推計人口」のリスク

八代 尚宏

日本の将来推計人口(2023年版)が4月26日に公表された。これは厚生労働省所属の国立社会保障・人口問題研究所が、5年に一度、発表するもので、これを元に、来年度の年金の財政検証など、重要な社会保障の計画や、道路などのインフラの整備計画等が立てられる。

この重要な推計値の公表は、当初の予定よりも大幅に遅れ、奇しくも、統一地方選の直後となった。仮に、少子化問題を選挙の争点にしないことを意図した結果であれば、その本来の役割を貶めるものと言える。

今回の将来推計では、2022年の出生数の80万人割れや、コロナ禍の中での婚姻数の大幅な減少等で、さらに厳しい人口の将来像が予想されていた。しかし、公表値での総人口数はむしろ、前回推計値よりも多くなり、また、高齢者比率も、2070年時点では前回推計とほとんど変わらない結果となった。

なぜ、こうした楽観的な推計値となったのか。本年、2月に設立された、「制度・規制改革学会」では、その要因について、専門家である鈴木亘学習院大学教授、西沢和彦日本総研主席研究員、ジャーナリストの大林尚氏と討議した。なお、文中で関連する図表等については、制度・規制改革学会のホームページを参照。

Juergen Sack/iStock

人口減や高齢化がなぜ進まないのか

少子化が進んでいるのに、なぜ旧推計と比べた将来人口数が減らないのか。例えば10年後の2033年についてみてみよう。足元の出生数が大きく減少していることで、新推計での若年人口(14歳以下)は83万人の減少となる。それでも15-64歳人口は221万人も増えるため、65歳以上人口14万人減を考慮しても、総人口数では124万人も増加する。

これは第1に、外国人頼みの想定である。コロナ感染が広がる直前までの2016年から2019年に到達した平均外国人入国超過数(出国者数との差額)の16.4万人が、今後の推計期間中に、その高水準のまま持続するという前提から生じている。これは前回推計時の6.9万人をはるかに上回る数である。

確かに、外国人の数は、コロナ前まではトレンド的に増えていたものの、コロナ感染で大きく落ち込んだ。今後、再び先の高い水準まで戻り、その後も安定的に推移するという根拠は示されていない。これには今後の出入国管理法の改革等の制度的な要因が大きい。また、日本経済の長期停滞や円安が持続すれば、日本で働くことのメリットは小さくなる。こうした外国人頼みの人口推計は、過去に例はなく、あまりにも大胆で希望的観測と言わざるを得ない。

第2に、楽観的な高齢化の見通しだ。高齢者の現役世代に対する比率が、2070年頃までは、前回推計よりも低下していることである。これは現役世代が外国人で増えていることだけでなく、高齢者の死亡率が高まっていることがある。

その理由として2022年にコロナの余波で、死亡数が前年比13万人増となった。この大部分が高齢者とみられるが、人口推計ではこの影響が、その後、元に戻りきらずに、しばらく持続することになっており、それが予想外の高齢者数減少の要因となっている。なお、当面の年金財政の試算には影響の小さな2070年以降の高齢者数は、それまでの減少分を取り戻すかのように逆に大きく増えて、長期には辻褄が合う結果となっている。

第3に、自動的に回復する出生率の見通しである。これは厚生労働省によれば予測値ではなく、一定の前提の下で定める仮定値ということだが、過去の実績値と比較をすると、ほとんどの場合、いずれも自動的に回復、ないしは安定する見込みとなっている。

過去の出生率の見通しで、実績値よりも低い結果となったのは1987年からの8個の仮定値の内、2007年推計時のみで、残りの推計値は、いずれも過大な値となっている。もっとも、出生率の仮定値(実質的な予測値)が外れること自体ではなく、それが常に過大な出生率となる方向に外れていることに大きな問題がある。

出生率の自動的な回復のなぞ

今回の2023年推計では、出生率が23年の1.23まで大きく低下した後、2024年以降に着実に回復するという、やや極端な変動を示している。これについてプレスリリースでは、「コロナ感染拡大以前から見られた出生率の低迷を反映し、短期的にはコロナ感染期における婚姻数減少等の影響を受けて低調に推移」としている。

しかし、肝心なことは、2023年を底にコロナによる出生数減少の反動増が生じる可能性はあるとしても、それを契機に、1.36という長期安定水準にまでトレンド的に回復することは別の問題であり、両者についての明確な根拠が必要である。

もっとも、この出生率回復の要因については、別の場所にヒントが隠されている。それは日本人女性についての出生率の仮定値で、1.29の水準で安定化することになっている。これは人口全体の出生率とは0.07の差に過ぎないが、日本の人口に占める外国人数が2%強に過ぎない現状では、逆算すれば、外国人女性に日本人の倍近い、高い出生率を期待していることになる。

他方で、コロナ前に増えていた外国人労働者の大部分は研修生や留学生等の単身者である。これは日本政府が移民の受け入れに否定的で、家族の呼び寄せを高度人材等に制限していたことがある。この政府の移民政策が大幅に変わることを、将来推計人口に盛り込んで良いのだろうか。外国人に労働力だけでなく、多くの子どもを産むことまで期待するという綱渡りの将来人口推計といえる。

年金財政検証にどう生かすか

この人口推計を最初に活用するのは、社会保障審議会年金部会における5年に一度の年金財政検証である。ここで年金保険料を負担する15-64歳人口と、年金給付の受給者としての65歳以上人口が重要となる。いずれも出生率と死亡率(平均余命)の長期の見通しが必要となる。

ここで人口推計における三つの仮定値があるが、過去の推計値と実績値のかい離を考慮すれば、従来の出生中位・死亡中位の組み合わせではなく、年金財政にもっとも負担のかかる出生低位・死亡低位のケースを「標準シナリオ」として用いるべきであろう。

また、この標準シナリオを前提に、様々な政策効果、例えば、外国人の移民の受け入れを増やすことや、岸田政権の少子化対策の成果で出生率が引き上げられる場合を政策実現ケースとして、希望的観測を排した標準シナリオとは峻別すべきである。

年金財政検証に限らず、明確な政策の変化もなしに、外国人の親だけでなくその子どもの増加も暗黙の前提として、少子高齢化社会への対応が可能となるような幻想をまき散らす、将来推計人口であってはならないといえる。