萌芽期を迎えたValue Added ビジネス:追加料金で稼ぐ世知辛い経営思想

Value Added ビジネス、あまり聞かない言葉かもしれません。存在しているかもしれませんが、とりあえず私がインスピレーションでつけた名前です。私はこの言葉をサブスクリプションビジネスやFeatures on Demand (FoD)といった萌芽期を迎え始めたビジネス、更には事業者が生み出す付加価値をオプション化することで収益につなげる動きと捉え、これが急速に展開するとみています。

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私が6月に取った日本行きの全日空の航空券で座席を指定するにあたり驚いたことがあります。窓側、通路側を指定すると片道25㌦(2500円)追加料金なのです。つまり3列シートの真ん中なら追加なしなのです。飛行機の座席はこだわりが多い人が多いと思います。絶対窓際の人もいますし、私のように窓際は寒いことがあるので座らない人もいます。しかし、3列シートの真ん中を積極的に選ぶ人はいない、つまり、全日空はそこをベースプライスと考えたわけです。

飛行機の座席指定をする際に追加料金を取るところは増えており、カナダのキャリアも同様です。また荷物も国内線は預け荷物は追加料金がかかるケースが増えています。これは荷物がない人がベースプライスということなのでしょう。

ではFeature on Demandビジネスとは何か、といえば「あなたのご要望にお応えしてサービスを付加しますよ」と言うことです。具体的には自動車メーカーが今、最も熱くなっている領域です。BMWは最近、運転席と助手席のシートヒーターをFoDに変えました。つまり、一定額を払わないとオンにならないのです。そもそも物理的装置は座席の下についているのですが、コンピューターを介してそれに使用制限をかけるわけです。よくよく考えるとおかしいのですが、それが正論化されようとしているのです。

ベンツはもっとえげつないです。同社のEVであるEQシリーズではエンジンパワーの追加分をオプションにしたのです。ベースモデルだと0-100を6秒ですが5.1秒にパワーアップする追加の60馬力が月60米ドル(1万円)、永久に買い取るなら1950㌦(30万円)追加になります。 トヨタも車の離れたところからのアンロック機能などを追加で売っています。

この手のFoDはテスラがそもそもやっていたのですが、それが大きく広がってきたということでしょう。もちろん、消費者はブンブン丸で怒っていますが、この流れは今後、あらゆる方面に広がる可能性が指摘されています。

熱海の名門旅館だった「つる屋」が閉館された後、香港資本がそれを買い取り、250億円かけて改修した「パールスターホテル」が取り組んだのは「泊食分離」形式です。つまり食事はオプションです。表向きは熱海にある飲食店が活性化するよう旅館が顧客を囲い込まない仕組みにしているというのが理由ですが、旅館をより不動産ビジネス的に扱い、手間のかかる飲食を省くのは一案なのかもしれません。

私が日本国内旅行する時は基本はシティホテルに宿泊し、食事は地元の飲食店で食べます。理由は好きなものを好きなだけ食べられるわけで、旅館料理のようにお仕着せ、押し付けはあまり好まないのです。こういう人は確実に増えています。

一方、サブスクがウザいと思うこともあります。私の会社が使っている2014年度版会計ソフトがいよいよサポートが無くなることもあり、新たに購入しようとしたらもう、買取版は無くなり、サブスクのみでした。それもいくつかあり、処理する会社の数や使えるパソコンの台数により月々の金額が違うのですが、最も安いプランでも1年半ぐらい払えばもともとの買取版と同じ金額になってしまいます。会社の会計ソフトは否が応でも必要なのでずっと購入し続けなくてはいけないのです。

日本で売っているノートパソコンには未だウィンドウズ オフィス パッケージが搭載されているものも若干ありますが、あれは日本スペシャルです。海外では原則なくなっています。ノートパソコンはカナダでも4万円台から普通にあるのですが、何も搭載されていないわけです。オフィス機能はサブスクになるわけで嫌だと思えばグーグルDocに入るしかないわけです。グーグルのスプレッドシートとエクセルは手を入れれば互換性がないとも言い切れないのですがメールなどで受け取ったエクセルやワードは開けないということです。

Value Added サービスはハードとソフトを融合させている場合に追加料金を取りやすくなります。例えば私が経営しているシェアハウスの場合、賃料と別に運営費の形で光熱費や清掃費用を追加で頂いています。遊園地などで入園料と乗り物に乗る代金が分かれている場合も同様です。そう考えると事業者が持っているサービスにお金がかかるというのは当然のことになのでしょう。

スーパーのビニール袋、日本ではまだ購入できるならこれは価値の追加とも言い換えられます。(カナダではビニール袋が既に禁止されています。)そのうち、スーパーのレジはセルフなら追加料金なし、人がいるところなら10円プラスになるかもしれません。それにうなずけるようになったのが今の時代なのです。

今後、顧客とサービス提供者の間でいざこざが起きることもしばしばありそうですが、我々消費者は事業者のやり方に飼いならされていくのです。なぜならそれがないと困ると分かっているからです。ある意味、世知辛い経営思想になったものだ、と思わずつぶやいてしまうのは私だけでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年5月25日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。