過去の成功体験が将来じゃまになる理由

黒坂岳央です。

成功体験は人に自信を与える。自分自身、過去に挑戦して成功した体験が今の自己肯定感の土台になっているという感覚がある。だが同時にこう思う。「過去の成功体験が未来の成功を邪魔しているケース」もあるのではないか?と。

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なぜ成功の後に転落?

よくある話が、華々しい成功を飾った人物が時間を置いて転落したことを取り上げられるケースである。もちろん、誰しも人生がずっと順風満帆とはいかないので、うまくいかない局面自体は仕方がないと思う。問題は大体の場合、一度転落した人が再び浮上するのは容易なことではないことだ。次に到来したチャンスをうまく掴むことができないのだ。多くの場合、成功体験がじゃまをしているのである。

成功を収めると人は往々にして傲慢になりがちだ。「自分は天才なんだ」「このくらいの結果はその気になればいつでも出せる」と慢心する。実例をあげたい。

知人の経営者に昔、FAXを使ったダイレクトメールで大きく売上を作った人がいる。周囲にも自分の手腕を自慢していた。彼はその時の成功体験に味をしめ、売上が低迷した次のタイミングでFAX DMを顧客に送った。本人にとっては過去に成功した伝家の宝刀を抜いた感覚だったかもしれない。だが結論的にこの取り組みは失敗に終わった。今の時代のFAX DMは迷惑メールと同じような受け取られ方をしてしまい、顧客からの無用なクレームを誘発してしまったのだ(自分はFAX DMサービス自体を否定するつもりはないが…)

どんな活動でも100%すべてが自分の実力ということはありえず、仕事で言えばたまたま時流に乗っていただけとか運の要素も否定できない。いざ、調子が狂うと過去の成功体験を引っ張り出し同じアプローチで挑もうとしてしまう。だが次は環境変化が起きているために、スランプからなかなか抜け出せない。せっかく次のチャンスが到来した時には、ピンチにうまく対応できなかった自信喪失でうまく波乗りできなかったり、過去の失敗を取り戻そうと過剰にリスクを取って大きく失敗する。

勝って兜の緒を締めよ

誰しもピンチの時は必死に努力する。転落してなるものかと頑張れる。問題は調子がいい時に慢心せず、謙虚さを維持し、周囲に対して感謝を忘れず、平時の時以上に気を引き締めて努力をするべきだと思っている。このことを示す言葉が勝って兜の緒を締めよである。

自分自身、去年くらいから過去の自分と比較して色々と調子がいいと感じている。もちろん、世の中には上には上がいることはよく理解しており、自分は成功者などとは微塵も思っていない。あくまで「自分史上そこそこ調子がいい」という程度の感覚に過ぎない。

だが、有頂天になるということは絶対にしない。なぜなら人生も仕事も何でもそうだが、上下する波と同じで調子がいいこともあれば、その逆に悪いことが続く局面もあると考えているからだ。いわば、一時的な成功など砂上の楼閣に過ぎず、どこかでまた調子が悪い時も必ずやってくると思っている。

重要なのはうまくいっている時に調子に乗って周囲からの信用を失ったり、ムダな散財という愚行をせず、逆に悪い局面がやってきても極端なマイナスを計上する事態を回避して局面を上手に守り切ることだと思っている。上手な波乗りができるためには、過去の成功体験などじゃまにしかならないのだ。本稿も現時点ではそこそこうまくいっていることが将来の自分に慢心を与えないために、「未来の自分への警告」として機能すると思っている。

「失敗から学べ」「失敗は経験だ」といった言葉は数多くある。だが、うまくいっている時にこそ注意を払えという提言は意外なほど少ない。成功体験は自信を与えてくれ、そういう意味で価値がある。だが新たなる挑戦をする上で足かせにしてもいけないのだ。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。