人気寿司店が会員制になってしまう「合理的な理由」

南麻布にある会員制の寿司店に連れて行ってもらいました。この日は、目黒にある別の寿司店の親方が月に一日だけの出張というタイミングで、素晴らしいお寿司を堪能できました。

ちなみにその目黒の寿司店も会員制ということで、グルメサイトにも掲載されていません。会員制のお店で、別の会員制のお寿司屋さんに握ってもらうという、ややこしい展開になりました(笑)。

会員制寿司店と聞くと、何だか排他的で偉そうな感じがしますが、そんなことはありません。威張っている訳ではなく、お店側にもそうせざるを得ない合理的な理由があるのです。

まず、寿司店は簡単に席数が増やせません。職人さんが1人で握る場合、カウンターだけで8人ぐらいが限界です。1日2回転したとしても、月に20営業日として320人しか入れません。1組2名とすれば、毎月食べに来ることができる人数は、160組ということです。常連だけですぐに埋まってしまう人数です。

来店客を広げすぎると、次の予約が1年後といった状態になってしまいます。

また、面識のない新規のお客さんの場合、ドタキャンリスクがあります。

お寿司は、原価率が非常に高く、1組キャンセルになるだけで数万円の仕入れた材料の損失になります。

顔見知りの常連客であれば、ドタキャンリスクはありません。そんなことをすれば、次から予約が取れなくなるからです。

さらに、一般に予約ができるように公開してしまうと、ほとんど予約が取れないにもかかわらず、予約の問い合わせが殺到し、毎回謝りながらお断りしなければなりません。その対応をするだけでも、小さなお店では大きな負担になります。

数カ月先まで満席の予約困難店に「今晩これから入れますか?」と能天気な電話をかけてくる人は、結構多いのです(私も良くやっていました)。

だから、自分が食べて欲しいと思うお客様に、毎回真摯に向き合い満足して帰ってもらいたいという職人気質を突き詰めると、会員制が合理的な選択になってしまうのです。

会員制といっても、外部に完全に門戸を閉ざしているわけではありません。

職人さんも人間です。彼らの気持ちに沿って交渉すれば、小さな扉から限られた人たちの世界に入れるかもしれません。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2023年5月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。