イランとアフガンの「戦闘」は軽くみない方がよい? --- 大田 位

chrispecoraro/iStock

ウクライナ戦争の行方も気になっていますが、イランに関して気になる記事が目に入りました。

国境で戦闘、2人死亡 アフガンとイラン

国境で戦闘、2人死亡 アフガンとイラン:時事ドットコム
【カブールAFP時事】アフガニスタンとイランの国境で27日、戦闘が発生し、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は2人が死亡したと明らかにした。両国は最近、アフガンを流れてイランに注ぐヘルマンド川の水量が減っている問題で、激しく対立していた。 イラン警察も衝突の発生は認めた。ただ、被害の詳細に関しては口を閉ざ...

両国は最近、アフガンを流れてイランに注ぐヘルマンド川の水量が減っている問題で、激しく対立していた。
(中略)
タリバン政権内務省の報道担当者は、衝突が起きたのはアフガン南西部ニムルズ州だとツイッターに書き込んだ。「それぞれの側で1人ずつ死亡した。負傷者も多い。両国の指導部に報告され、今は落ち着いている。隣国と戦争をしたいとは思っていない」と訴えた。

時事通信の記事を読むと、既に混乱は収束に向かっているような印象を受けます。しかし双方に死者が出てしまうような戦闘が起きて、そんなに簡単に収束するのだろうかと疑問に思いました。そこでこの件に関するアルジャジーラの記事を探し出して読んでみたのですが、思ったよりも深刻な問題であることがわかりました。

At least three killed in shooting at Iran-Afghan border(イランとアフガニスタンの国境で銃撃、少なくとも3人死亡)

However, Iran’s official IRNA news agency later said two Iranian border guards had been killed and two Iranian civilians injured.
(同氏は、双方で1人が死亡、数人が負傷したと述べた。しかし、イランの国営IRNA通信はその後、イラン国境警備隊員2名が殺害され、イラン民間人2名が負傷したと発表した。)

混乱は収束するどころか加速しており、更なる戦闘によって死者が増えていることが分かります。
またアルジャジーラの記事に、私にとって簡単に見過ごすことができない記述がありました。

According to the outlet, Iran’s border guards said in a statement they had “used their superior heavy fire to inflict casualties and serious damage”.
(同紙によると、イランの国境警備隊は声明で「優れた重火力を使用して死傷者と重大な損害を与えた」と述べた。)

「重火力」を使用したということは、民間レベルの紛争ではなく、軍隊が既に出動して攻撃活動を行ったということです。さらに情報収集を行ったところ、Hindustan Timesのニュース動画が見つかりました。映像の1:20ごろに以下のキャプションがあります。

Taliban clash with Iran’s military using missiles, artillery & machine guns at border | Watch

Many pointed out that missiles, rockets and artillery are being used in the fight
(戦闘ではミサイル、ロケット弾、大砲が使用されていると多くの人が指摘している)

このキャプションもアルジャジーラの報道と一致します。映像にはミサイル、ロケット弾、大砲の姿を確認することができませんでしたが、0:40ごろに何かを発射している様子が左側に映っています。迫撃砲ではないかと思います。

またアルジャジーラの記事からは、戦闘が市街地の近くで起きており、逃げ出した住民もいることが分かります。

The advocacy group HalVash, which reports on issues affecting the Baluch people in the predominately Sunni province of Sistan and Baluchestan, quoted residents in the area as saying that the fighting took place near the Kang district of Nimroz. It said some people in the area had fled the violence.
(スンニ派が多数を占めるシスターン州とバルーチェスターン州のバルーチ族に影響を与える問題について報告している擁護団体ハルヴァシュは、戦闘がニムロズのカーン地区近くで起こったと同地域の住民の話として伝えた。地域の一部の人々が暴力から逃れてきたと発表した。)

両国間の水利権をめぐる対立は、既に軍隊が出動して攻撃活動を行うほど悪化しており、その影響は戦闘が起きた地区の住民が逃げ出さなければならないほど激化しています。

両国の対立姿勢が今後、どのようになっていくのか私には予想がつきません。しかしアフガニスタン側はヘルマンド川のダムの建設工事を始めており、住民も歓迎していることから、イラン側の反発は激しくなる一方であると思われます。

(追記)

イラン国営通信IRNAによると、イラン内務大臣は事態が沈静化したと発表した。

Ahmad Vahidi made the remarks in Tehran on Monday while speaking about the recent border tension between Iran and its eastern neighbor, Afghanistan.
The conflicts in the joint border lines were minor; meanwhile, due response was naturally given to the Afghan side, the interior minister underlined.
There is no problem at the present time, Vahidi noted adding that the border point is open and everything is calm there.
(アフマド・バヒディ氏は月曜、テヘランでイランと東隣国アフガニスタンとの間の最近の国境緊張について発言した。
共同の境界線での衝突は軽微であった。 一方、アフガニスタン側には当然の対応があったと内務大臣は強調した。
現時点では問題はなく、国境地点は開いており、すべてが穏やかであるとバヒディ氏は付け加えた。)

大田 位(おおた ただし)
社会人。日本に関連しそうな海外記事が好き。