起業に向いている人、サラリーマンに向いている人

黒坂岳央です。

起業に興味を持ち、勉強したり銀座にレンタルオフィスを借りて活動してから10年以上が過ぎた。最初は何もかもすべてが失敗続きだったが、とりあえず今は自分のビジネスでご飯を食べることができている。

ここに来るまで本当に色んな経験、勉強、事例を体験してきた。その中で、「起業して好きなことで生きていく」と鼻息荒かった人たちが脱サラ後に後悔するケースもそれなりに目の当たりにしてきた。「今は個の時代だ。サラリーマンなんて終わってる」という十把一絡げの主張は鵜呑みにしてはいけない。完全に人を選ぶ世界である。独断と偏見で意見を述べたい。

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サラリーマンの大きなメリット

「サラリーマンなんてひたすら経営者から搾取されている気の毒な存在だ」という意見をよく見るが、これは正しくない。厳密に言えば「受け取っている給与や手当以上に営業利益に貢献している社員」には当てはまる話かもしれないが、そうでない人はむしろ会社から救われていることが少なくないのだ。

サラリーマンのメリットはいくつもあるが、その一つが給与である。ほとんどの新卒は戦力にならず、入社から数年間は採用した企業側は赤字になる。受け取る給与以上のパフォーマンスを上げることはできないが、周囲はビジネススキルの蓄積を気長に待ち、同僚や先輩、上司が世話をしてくれる。この間もずっと給与を受け取れるのだ。これは恵まれた立場だと思う。

また、給与だけでなくビジネススキルや知識も学ぶ経験になる。会社によっては社費で研修に参加させてもらったり、資格手当を支給してくれたりする。

最後に経験である。会社の規模がでかいというだけで、でかい仕事をさせてもらえることもある。自分自身、30前半で経営企画の仕事をした時には、社内にアクセンチュアなどの外資系コンサルが入り、1万人以上の社員が使用する、米国由来の大型システム導入のプロジェクトや研修の企画に携わらせてもらったことがあり、とてもダイナミックな仕事の経験ができてよかったと思っている。

給与、ビジネススキル、仕事経験の3つを与えてもらえるのは大変恵まれている。

起業後に感じるサラリーマンのありがたみ

前パラグラフで取り上げたメリットを実感できるのは起業後である。

まず収入はマーケットで価値を提供してナンボである。スキルや提供できる価値が低ければ、誰一人自分に対価を払ってくれる人などいない。文字通り、1円も稼げない。よしんば高いスキルを持っていたとしても、そのスキルに価値を感じ、喜んで対価を払ってくれる相手を自分で見つけなければいけない。「好きなことで生きていくぞ」と起業した人が途方に暮れる理由、それは「集客できないと、その好きな仕事もできない」という事実である。そして多くの人にとって集客は簡単ではない。

次にビジネススキルや経験である。サラリーマンなら日々、目の前の仕事をこなしていれば上司が新しい仕事を振る。スキルアップすればより高度な仕事ができる。だが起業すると今すぐスキルがないと経験を積むための経験不足に悩むことになる。

業界にもよるが、基本的にポテンシャルにかけてお金を払ってくれる相手はほぼいない。「あなたはスキル不足だが、これも将来は経験になる。やってみなさい」など優しく、できない相手にお金を払って仕事を頼む人などいない。スキルは自分の力で付けるしかなく厳しい世界なのだ。

自分の場合は週末起業でスタートし、ビジネスが軌道に乗るまで2年間じっくりかけて集客や売上、取引先を熟成させてから会社をやめたのでなんとかなった。だが、いきなり脱サラしていたら精神的に持たなかったと思う。だから今でも勤務先の会社には感謝の気持ちを忘れないようにしている。

起業に向いている人

正直、大多数の人は起業して自分のビジネスで食べていく道は向かないと思う。逆に起業に向いている人もいる。

1つ目は24時間仕事モードでもウェルカムという感覚の人である。よく「自分は実働時間が少なくても仕組みで稼げてるから労働時間少ない」と吹聴している人がいるが、そういう人を含めて、起業した人は24時間仕事のことを考え続けている。

自分も手を動かしている実働時間は昔に比べたらかなり減った。昔は土日祝も一日16時間以上仕事をしていたが、今は祝日は育児に集中しているので仕事はほぼ何もしない。だがスーパーで買物をしている時や料理をしている時も、気がつけば仕事の企画を考えてしまうし、妻との会話の90%以上はビジネスと育児の話で何気ない日常会話はほぼない。

手を動かしている以外の時間も含めると、実質的に起きている間はずっと仕事をしている状態と言える。オンオフをしっかりつけたい!という人には苦痛しかないだろう。よって人を選ぶ。

次に不確定性に強い人だ。サラリーマンは出社すれば確実に給与が出る。ものすごく忙しくバタバタ動いた日も、あまりやることがなくのんびり仕事をした日も変わらず給与が出る。しかし、起業するとクライアントワークを除けば、頑張る・頑張らないはそれほど関係ない。パフォーマンスがすべてだ。

自分はYouTube動画を作っているが、制作に1ヶ月以上かけた大作がコケてしまい、すぐ削除することになることがあった。その一方で、思いつきで30分ほどで即興で撮った動画が公開して1年半後、なぜか突然すごく再生されて色んなビジネスチャンスにつながるということもあった。

イメージ、毎日畑に種まきをしまくってどれか大きく伸びるのを期待し、とにかくまき続けるという感じである。仕事は頑張ったら頑張った分だけ成果がほしい、という感覚の持ち主には耐えられない世界だろう。そうした人はクライアントワーク中心の仕事が向いているかも知れないが、起業するとそのクライアント先からの発注も不安定なのが普通なので、やっぱり起業は向かないかもしれない。

最後に自己管理である。サラリーマンは周囲の目があるので、起床時はやる気がなくてもとりあえず会社にいけば仕事があるし、やるしかないという環境だ。受身の姿勢の人でも仕事はこなせる。だが、特に一人でビジネスをしていると何も拘束力はない。サボれば何一つ成果物がなく一日が終わってしまう。誰にも咎められることはないが、そんな日が続くならゆっくりとビジネスは終わっていく。

起業に向いているタイプはセルフスターターな気質で、持ち時間すべてを注ぎ込んで強烈にやりたいことがあるというタイプだ。こういう人には天国でも、受け身の人には地獄に感じるだろう。

結論的には向き不向きがあるという話だ。サラリーマンに向いている人、起業して自分でビジネスをするのに向いている人、それぞれわかれる。どっちが上も下もない。ただ適性がない場所にいるより、適性のある場所に行く方が幸せになれる可能性は高いのは間違いないだろう。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。