国家公務員の人気低落に想う:志を持った人材を採用するために

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毎年の恒例行事ではあるが、今年も、国家公務員試験の合格発表が行われた。

合格者2,027人中女性が683人を占めて約1/3となり(33.7%)、数としても割合としても現行制度下で過去最高となった。各省とも、女性は同期でポツポツと数名いるだけの状態だった私の頃とは隔世の感がある。

そんな中、特に気になるのは、受験者数が、ピーク時の6割となり(14,372人)、過去2番目の少なさとなったことだ。現行制度となった2012年度をピークに、ここ10年あまり、基本的に受験者数は下がり続けてきた。様々な工夫が実って、昨年度(2022年度)に増加に転じたものの、1年で再度減少することとなってしまった。

そして、東大生の比率は10%を切り、こちらも過去最低となったそうだ(200名を切ったのは初めてとのこと)。東大と言えば、官吏養成学校の様相を呈していた過去とは、これまた隔世の感がある。

阿吽の呼吸というか暗黙の了解というか、多額の税金を投じての国立大学で、比較的安い学費で学ばせてあげる代わりに、大学卒業後は、安月給ながら官吏として国家に尽くす、というストーリーが東大を中心に日本ではこれまでは成り立っていたが、もはやそういう時代ではなくなって来ている。

つまり、国家という視野で見れば、多額の税金を投入して「東大生」を育て、その「製品」としての「東大生」を国家官僚などに送り込む予定が、最近は、雪崩をうって外資系企業に殺到しつつあるわけで、日本という国は、結構不思議なことをやっているともいえる。

「東大卒」という良い学歴を得て、高給が望める外資系コンサルなどに就職するのであれば、国民的に負担をして学費を安くしてあげる理由もなく(奨学金を貸与して、卒業後に返させればいいわけで)、中長期的には、国立大学の「商品価値」の高さに基づいて、学費を値上げしていかないと、国民の理解が得られなくなる時代がやがてやって来るかもしれない。

米国では、良い学校ほど学費が高い傾向がある。「商品価値」を考えれば、まあ、当然といえば当然の帰結だ。

学生は奨学金などを借りて、高い学費を払って「学歴」を手に入れ、高い給与の職について奨学金を返す、というのが基本的なストーリーだ。奨学金の借り入れという形で、過重な負担をさせているということで、最近、社会問題になってはいるが(日本でも同様の指摘が盛り上がって来ている)、この構図は大きくは変わらないであろう。

さて、国家公務員の志望者が減少しているという件、特に東大生の間で人気が落ちてきているという点に話を戻そう。公務員の劣化という形で不安を煽る世の報道を前にしつつ、私は、そんなに問題だとは思っていない。むしろ、改革を進めるチャンスなのではないか、という風に捉えている。

確かに、人気は、ないよりはあった方が良いに決まっているし、国家公務員の質が劣化することは良くないのは論を待たないが、捉え方次第だと思う。「寄らば大樹」で、皆が安定志向で国家公務員を目指すのではなく、ベンチャー企業への就職をしたり、場合によっては起業してしまったり、或いは、より現場志向でNPOへの就職などの形で社会を良くしたりすることは、悪いことではない。

霞が関の側から見ても、受験勉強の王者たちの集まりの東大生ばかりが官僚になるのではなく、様々な特性をもった方々が霞が関に集って政策を担当するようになることは、むしろ、歓迎すべきことではなかろうか。

本質的に大事なのは、単に「名誉だから」とか「社会的評価が高いから」ということではなく、公務に尽くしたいとの志をしっかり持った者が、数多く集って、霞が関をより本質的な仕事が出来る場に変えていく、ということだ。減ったとはいえ、受験者数は、定員を十分に超えているわけなので、むしろ、志をもった、覚悟のある良い人材を多く集めることが肝心だ。

そのためには、具体的にどのような制度改革が必要であろうか。私は特に、新卒一括採用の枠組みで、地頭の良い東大生等を多数取ることに躍起になるのではなく、社会のことをある程度知り、その上で公務に尽くしたいとしっかり考えてアプライしてくる志ある者の中途採用を強化すること、特に、一度、公務員を経験して民間に転じた者で、再度、志をもって公務に尽くしたいと考える者を重点的に採用することが鍵だと思っている。

この点、先行した動きを見せていて注目に値するのが神戸市の動きだ。昨年度、今年度と神戸市で2年続けて「人材育成に関する懇話会」の委員や、「新たな人材獲得戦略に関する懇話会」の座長を務めさせて頂いた。

かつてのように、京大や神戸大卒の優秀層が新卒で取れなくなってきているという実態の下、一度辞めた方の引き戻しや中途採用重視への切り替えを私も主張したところ、早速に、キャリアリターン制度を創設したり、新卒と中途採用の割合を半々にするなどの制度改正をしたりしている。

東京にいる神戸への想いのある方々を市役所職員として呼び戻そうと、タクシー広告まで打つなど、試行錯誤を繰り返しながら進めているが、こうした動きが、各地や国で本格化することに期待したい。大事なのは、志を持った人材の確保である。

【参考】

神戸市 キャリアリターン制度

神戸市の中途採用の拡大

※ 経験者採用東京説明会 7月23日(日)13時30分~開催!@渋谷QWS 市長登壇!
※ 経験者採用枠 通年募集実施中! 25歳~39歳(R6.4.1現在)
Bターム(7月、8月)、Cターム(9月、10月、11月)、Dターム(12月、1月、2月)
申込受付期間 毎月1日~15日
※「大卒通年枠」や「経験者枠」等は、特別な公務員試験対策は必要ありません。