自民党はなぜ勝ち続けるのか?:蔵前勝久『自民党の魔力』

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「自民党の強さの秘訣分かるか………オレたち地方議員だよ」

県議会議員に当選して間もない頃、食事をご馳走になりながら神奈川県議の先輩は私にこう語った。岸田内閣の支持率低迷で厳しい戦いと言われていた神奈川自民党も、終わってみれば現有47議席に1議席純増で48人の県議を誕生させた。いざ国政選挙となれば、県議始め県内の地方議員たちがフル回転して候補を支える。他党には真似できない陣容だ。

日本列島に満遍なく散らばる地方の猛者たち。本書では、国政で政権交代が起きながらも、動じることなく自民党を底辺でしっかり支える地方議員たちに焦点を当てる。そして、自民党の強さの根源を、普段テレビや新聞といったメディアには登場しない地方議員の動きを追うことで解明を試みる。

「強者を飲み込むブラックホール」とは、自民党は何かとの問いに対する著者の答えである。著者は福岡政界の重鎮で県議の蔵内勇夫氏に注目し、権力闘争を経て実力者として頭角を現す過程を追う。

当初は自民党を敵に回し激しく戦いながら、最後は実力で党内を掌握する姿は圧巻である。内部では権力闘争が党内に活気を生み、外部に対しては選挙に強い政治家を吸収して自民党に招き入れ、自らの強さへと転換する。

理屈は後から貨車でくると言うが、融通無碍に体質改善して、その場その場で置かれた状況に適応して姿を変えるのが自民党の特徴だ。よく言えば柔軟、悪く言えば無節操だが、選挙に勝てるか否かが判断軸であり、極めて単純な論理でもある。

著者が言うところの「いい加減さ」は、思想信条が右から左へと広く、多くの「一国一城の主」を抱える自民党が膨張した大組織を維持する知恵でもあるのだ。

「無所属だけど、バリバリの自民党員っすよ!」

先日同じ新人議員としてイベントで一緒に登壇した、関東某県の町議会議員は苦笑いしながらこう私に言った。

地元では現職の自民党国会議員と連携するが、野党に籍を置く保守系国会議員の支持層からも支持を受けるためやむを得ない措置だという。このような地方政治家は、この町議だけではなく、全国津々浦々で見られることだと著者は言う。

「ある一人だけが『自民党公認』となれば、町内各地の自民党支持層の票を、その人が集める。それは、ずるい」とは、本書で取り上げられた宮城県大河原町の事例だ。発言の主は保守系無所属として町議でありながら、地元自民党支部長も務めた男性だ。

こういった「素性不明」の地方議員の多くは自民党籍をもっていると推計されるらしいが、それを証明する公式のデータがあるわけでもない。そもそも入党自体が、極めてアナログかつ、資格審査もなくいい加減な代物でもある。

このように公式統計には出てこないものの、いざ国政選挙となれば全国各地でそれぞれが自民党の集票マシーンとして動く。「自民党の魔力」に引き寄せられた地方議員たちが、この国の巨大与党を最前線で支えているのである。

瞬間的には維新に強い追い風が吹いているように見えるが、しかし全国各地に根を張った自民党のネットワークは健在だ。メディア関係者が、まるで自民党が大敗するかのように選挙情勢を嬉々として語るほど老舗政党が地域に張り巡らせた基盤は脆弱ではない。