“夏の暑さにも負けぬ丈夫な体”

居間の壁に宮沢賢治の有名な詩「雨ニモマケズ」が掛かっている。その詩の中に「夏の暑さにも負けぬ丈夫な体を持ち……」がある。当方はその言葉を繰り返しながら、ウィーンの暑さに耐えているところだ。

宮沢賢治の詩「雨二モマケズ」とわが家の古い扇風機

オーストリア国営放送(ORF)の夜のニュース番組のトップはここ数日は「暑さ」だった。異常な高温に悩む欧州各地の状況を報道していた。ギリシャでは14日、44・2度を記録したという。イタリア南部のシチリア島では今週46度から48度まで気温が上がると予測されている。普段は欧州でも30度を超える日はほとんどなかった英国でもこの夏の暑さに苦しんでいるという。

中欧に位置するウィーンは昔は30度を超える日は少なかった。だから、ウィーンの建物は厳しい冬を凌ぐために暖房を重視して建てられている。一方、暑さ対策は設計段階でほとんど検討されないという。

1980年、ウィーンを初めて訪ねた時、友人は「冬を乗り越えるためにはしっかりとしたマンテル(マント)が必要だ」と助言してくれた。だから、少々重たかったがしっかりしたマンテルを買った。しかし、知人は夏の暑さ対策ではなにもアドバイスしてくれなかった。

ウィーンで今年に入って既に16日間の猛暑日が記録されている。猛暑日の数は増加傾向にあり、今年のペースは1990年代の猛暑日の平均値を上回っている。最高は2015年で42日間の30度以上の猛暑日があった。ウィーン内で10日、36・6度と最高値を記録したという。夜でも20度を上回る熱帯夜が続く(Geo Sphere Austriaのデータベース)。

ORFの気象担当官ヴァッダック氏は、「オーストリアには250年以上にわたり、世界でも最も長い気温記録を持つ国の一つだ。過去250年のデータからいえることは、過去20年間で気温は上昇してきていることだ」という。「これは気候変動の結果であり、その主因は人為的な原因に基づく」と説明する(ORF公式サイト7月15日)。

高温や熱風は子供、高齢者、既往症の人々にとって熱中症や心血管虚脱などのリスクがある。ウィーンはクールダウン策を実施し、最近では市内300カ所にミストシャワーを設置し、冷却ゾーンをつくっている。そして中長期計画として、公園で植林、樹木を増やしていくという。

当方はこのコラム欄で数回、夏の暑さ対策として「幽霊」の話をした。この分野は当方の得意とする世界だが、幽霊など信じない人が増えてきた。そこで実際的な助けとして、夏のシーズンにウィーンを訪問した観光客向けに市内でどこが最も涼しいかを書いた。古いキリスト教会内だ。幽霊もでるかもしれないが、教会内はひんやりしている。一休みのために最寄りの教会の中に入って30分も座っていれば、汗は吹っ飛んでしまう(「猛暑を少し和らげる『幽霊の話』」2018年7月24日参考)。

キリスト教会の聖職者の未成年者への性的虐待事件が多発して、教会に通う信者の数は年々、減少してきたが、夏のシーズンに入ると、信者ではないが、避暑のために教会建物に足を踏み入れる人が結構見られる。教会の神父さんも「教会で一休みしていきませんか」と宿屋の主人のように行きかう客に声をかけている、というわけだ。

しかし、正直言って、幽霊も教会内も今年の暑さにはどれだけ役に立つかは自信がない。当方は過去、2回、40度以上の灼熱を体験した。ひょっとしたら、3度目の体験をウィーンでするかもしれない。

オーストリア大衆紙が「暑さ対策にはシエスタで乗り越えよう」と書いていた。シエスタ(Siesta)はラテン語で、スペインなど南欧では「昼寝」を意味する。当方はここ数日、シエスタを実践している。確かに、昼食後、1時間から2時間ほど休むと、疲れが取れるが、長く寝過ぎて貴重な午後の時間を失ったしまったこともある。いずれにしても、先述したように、ここ暫くは「夏の暑さにも負けぬ丈夫な体……」と唱えながら秋の訪れを待っている日々だ。

【編集後記】

スウェ―デンで15日開催予定だった、イスラエル大使館前でのトーラーと聖書を燃やす抗議デモは開始直前になって中止された。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年7月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。