日本の「失われた30年」よりたちが悪い中国経済

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中国の4-6月のGDPが発表になりました。6.3%増はそれだけ見ればよさげですが、エコノミストが見込んだ事前予想をことごとく下回っており、消費を中心に厳しさが如実に表れています。23年度の年間成長率は5%程度ではないか、と見る向きが増えています。

世界経済全体を見ると中国経済に依存する傾向は依然強いのです。例えば石油や鉱物資源の相場は中国経済の行方次第ですし、今ではすっかり影を潜めた中国向けハイテク商品の輸出も実はウェイトは大きいのです。エヌビディアやAMDもアメリカの輸出規制をクリアする低レベルの半導体を輸出しており、売り上げの2-3割以上を占めます。好き嫌いとは別であり、切り離せず、無視も出来ない訳です。

中国経済の不振は何処からきているのか、様々な角度から検証する必要があります。その中でやはり不動産の歪みが生み出した中国経済の不振は日本が30年近く経済が浮上できなかった理由と一部、似たところがあるのでそのあたりを中心に考えてみたいと思います。

日本がなぜ、バブル崩壊後、経済の浮上に時間がかかっているのか、理由を上げよといわれれば5つでも6つでも即座に思いつきますが、不動産括りで見ると結局はバブル前に踊って買った、あるいはバブル崩壊後に安くなったといってローンを組んで買ったマンションがあだになっています。

一般消費者からすればボーナス月の加算返済を含めれば毎月十数万円ぐらい返済に回した方も多いでしょう。ところが25-35年ローンを支払い続けてもマンションの価値は払った金額以下になります(最近の不動産ブームは例外です)。

つまり、住宅ローンは一種の資産形成のための貯金であったはずですが、貯まっていなかったということです。

では中国はどうなのか、といえばそもそも持ち家といっても土地については所有権ではなく70年の借地権で、期間満了後は更新可能とはされますが、どうなるか、今だその条件に当てはまるケースが無いので不明です(中国の私有住宅が始まったのは80年代なのでまだ50年ぐらいしか制度上経っていません)。

それでも中国人の住宅所有に対する固執は極めて高く、結婚するには住宅がないとダメ、という程です。その為、一部の調査では持ち家率が都市部の場合9割にも達するという情報もあります(私はそれは信じませんが)。先進国の持ち家率が6割強であることを考えると数字はともかく異様に高そうだと想定できます。ただこの高い持ち家率こそが中国経済の足かせになった可能性が高いと思います。

それはローンを払い続ける人が日本人のバブル崩壊後にそれに比べ圧倒的多数になっているからです。極端な話、持ち家の人の過半数、つまり都市部居住者の多くは未だにローンを払っているわけです。

では失業したり事情が変わった場合はどうなるのでしょうか? 持ち家を簡単に売却できるのか、といえば現状、不動産市況は悪く、市場に出しても損切りしない限り売れないとされます。需要が強くないのです。

その理由の一つに購入できる層の雇用環境が悪化していることはあるでしょう。特に購入予備軍の若年層(16-24歳)の失業率は6月は21.8%で上昇傾向が止まりません。若年層の失業には背景があります。それは大学卒が急増し、雇用市場がそれを吸収できなかったのが理由です。中国版「大学は出たけれど…」であります。

企業による求職が伸びないのはコロナの厳しい経済規制もありますが、個人的には習近平氏の経済音痴ぶりが中国の経済発展の芽を摘み取ったとみています。

共産党イデオロギーと市場経済を比べ、市場経済がイデオロギーを凌駕し、影響を与えそうになった際に次々と規制をかけました。金融やIT、不動産、更には学習塾まで厳しく抑え込みます。外国への投資も外貨流出を抑えるため、規制が敷かれます。かつてのように中国企業が海外不動産を買い漁ることはほぼ聞かれなくなりました。

これでは14億の民を食べさせるだけの成長を内需で生み出せないわけです。輸出製品の製造にしても欧米の規制があるために半製品をベトナムなど東南アジアに輸出し、そこで完成品にして欧米に輸出する2段階方式を取っているため、国内は実質的な製造業の頭打ちになっています。

これでは中国経済は相当厳しい状況が続くであろう、と予想せざるを得ません。つまり、市場経済の原理が働く限り、一定の需給の循環と自動調節機能が働くのですが、中国の場合、政治的意思によりそこにバイアスをかけるため、自動調整にならないわけです。

当然、人口流出という問題も生じます。今、香港に脱出する本土民が話題になっていますが、産経がアメリカに脱する中国人を報じています。中国からノービザで入れる南米エクアドルに飛び、そこから車か徒歩で3700キロ北のアメリカ国境を目指し、亡命するというもの。ヒスパニックより受け入れられる確率が高いともされます。次期大統領選では欧州が抱えている難民問題同様、アメリカはあふれる中国難民を受け入れるのかと政治問題化することになりかねない状況です。

アメリカのことですから「中国は人まで輸出する気か?」と食って掛かりそうです。

中国にナチュラルな市場経済原理が働かない以上、政府の気まぐれでパッチワーク的な経済対策でその場をしのぎ続けるしかないのでしょう。世界は別の意味で中国を注視しなくてはいけないかもしれません。なぜなら中国経済の長期の不振となれば誰が14億の民を食わせるのか、という問題に直面しないとは限らないからです。今や一国の問題は一国で収まらないということです。

では今日はこのぐらいで


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年7月18日の記事より転載させていただきました。