アメリカの不動産不況は「対岸の火事」なのか

アメリカのオフィス用不動産の空室率が上昇し、不動産会社が苦境に陥っています。

図表は日本経済新聞電子版に掲載されていたアメリカの主要なオフィスREIT銘柄のをインデックスにした「S&Pコンポジット1500オフィスREITs指数」ですが、2009年のリーマンショック以来の低水準に落ち込んでいます。(図表を元記事で見る

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その理由は、アメリカの金利上昇による融資環境の変化の上昇とコロナ禍以降の在宅勤務の拡大です。

アメリカでは金融引き締めが急速に進み、資金調達コストが高まりました。それと同時に、シリコンバレーバンクの破綻を契機に金融機関のリスクに対する警戒感が高まり、資金面での不安が高まっています。

オフィス用不動産に関しては、全米の空室率が12.5%という調査もあり、ニューヨーク、サンフランシスコといった賃料の高騰していたエリアほど価格の下落が激しくなっています。

日本でも、再開発による新規物件の供給拡大に伴い、都心部のオフィスビルの空室率が高まっています。今後もさらに新しいビルが次々と稼働すれば、空室率がさらに高まることも予想されます。

幸い日本では金利上昇がアメリカほど激しくなく、在宅勤務もそれほど定着していません。在宅勤務が全くなくなるとは思いませんが、労働環境が海外とはかなり異なるのは事実です。

それでも、需給関係はこれから徐々に悪化が続くと予想します。

先行きが不透明なオフィス用不動産ですが、居住用物件に関してはどうでしょうか?

東京でも家賃が50万円を超えるような高級賃貸物件の供給は増えるでしょう。一方で、家賃が10万円以下のワンルームマンションの供給は、地価の上昇と建築コストの高騰で増えにくくなっています。都心の新築ワンルーム物件は家賃が10万円を超えており、借りられる人の数は限られています。

また、郊外に引っ越す人も増えてはいますが、子供がいるようなファミリー層が中心です。単身者の住居に関しては、都心志向が引き続き強く、ニーズは衰えていません。これは若年層だけではなく、シニアにも似たような傾向が出てきています。

このように、同じ不動産であっても、エリアや利用用途によってかなり投資環境が異なることがわかります。

相対比較すれば、国内の都心部のワンルームマンションの投資対象としての安定性が際立っているというのが実感です。

とは言え、油断は禁物です。国内の居住用物件についても、賃貸需要と金融機関の融資姿勢の変化には、引き続き目を光らせたいと思います。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2023年7月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。