「気候危機は存在しない」という世界の科学者1500人の声明

池田 信夫

このところ異常な暑さが続いている。こういうときマスコミに出てくるのが「地球温暖化で暑くなった」という話だが、これは錯覚だ。日本の都市部で体験する暑さのほとんどは建物や道路の照り返しによるヒートアイランド現象で、その効果は地球温暖化の2倍以上である。

IPCCの確証バイアス

地球は国連のいうような気候危機に直面しているのだろうか。世界の科学者が結成した世界気候宣言は、2019年に「気候危機は存在しない」という声明を発表した。

今年5月に発表された最新バージョンには、ノーベル賞受賞者を含む1500人の科学者が署名している。そのファクトチェックの対象はIPCCの第6次評価報告書(AR6)である。

AR6は気候変動に関連する文献を網羅的にサーベイしているが、気候危機をあおる上で都合の悪いデータは無視している。この報告書は、このようなIPCCの確証バイアスを指摘し、その結論と合わないデータを挙げたもので、よくあるトンデモ本とは違う。

温暖化は人類史上初ではない

AR6の結論には、次のような(科学的に検証可能な)強い命題が含まれている。

  1. 人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。
  2. 気候システム全般にわたる最近の変化の規模は、数百年から数千年にわたって前例のないものである
  3. 人為起源の気候変動は、世界中の全ての地域で多くの極端な気象と気候にすでに影響を及ぼしている

IPCCはAR3でホッケースティックと呼ばれる急速な気温上昇が見られると主張したが、AR5では撤回した。ところがAR6ではまたホッケースティックが登場し、図1のように現在の気温は過去12万5000年で最高だと主張している。

図1 IPCC AR6より

しかしこれは人類史上初めてではない。木の年輪データによれば、中世温暖期を含めて何度も温暖期はあった(図2)。中世のCO₂濃度は今より明らかに低かったので、これはCO₂が温暖化の最大の原因だというIPCCのモデルとは矛盾する。

図2 北半球の年輪から推定した地球の平均気温(本書より)

むしろ1850年までの小氷河期が異常に低温であり、これを「工業化後」として基準にするのはミスリーディングである。20世紀前半まで、地球の平均気温に影響を及ぼすような工業化はなかった。

1.5℃目標を提言した2018年の特別報告書では「現在の温暖化は100%人為的な原因だ」と断定しているが、これは誤りである(AR6では撤回された)。人為的な原因とともに自然の変動もあり、人間が気候をコントロールできる余地は小さい。

太陽活動と宇宙線の影響

気温上昇には太陽活動との相関が強いが、その原因ははっきりしない。それは宇宙線だというのがスベンスマルク効果である。太陽の磁場が強まると宇宙線が減り、宇宙線でできる低層雲が太陽光を反射する日傘効果が減って温暖化する。

この相関は2000年代から崩れたのでAR6は否定しているが、ノイズを除いた最近のデータでは、図3のように宇宙線と低層雲の量には強い相関がある。これは2019年に神戸大学の研究チームも確認した。

図3 宇宙線と低層雲の量(本書より)

海水温も海面も上昇していない

地上の観測には、ヒートアイランド現象の影響が強い。衛星の観測にもその影響が出るが、その特異データを他の観測点と平均するので、陸上の温度は高く出るバイアスがある。海水の温度には単調な上昇はみられず、図4のようにエルニーニョの影響が強い。

図4 海水温の変化(本書より)

紀元前400年から現在までのデータをみても、図5のように海面は中世のほうが高かった。

図5 海面の変化(本書より)

北半球では海面は下がっている。図6はストックホルムの海面だが、これまで一貫して下がっているのに、AR6は2020年から急速に上がると(根拠を示さずに)予測している。

図6 ストックホルムの海面(本書より)

異常気象も災害も増えていない

ハリケーンやサイクロンなどの異常気象は増えていない(図7)。アメリカの熱波も増えていない。

図7 世界のハリケーンの頻度

その結果、自然災害の死者は大幅に減った(図8)。その最大の原因は、堤防や潅漑などの災害対策の整備である。

図8 自然災害の死者数(本書より)

最善の気候変動対策は豊かになること

20世紀後半から地球が温暖化しているというデータは、陸上の観測点や衛星による観測であり、ヒートアイランド現象の影響を完全に除去できない。海面の温度上昇はみられず、海面も上昇していない。

温暖化の最大の原因が人間活動だというAR6のコアの結論は、実測データで証明されていない。最近の気温上昇は、太陽活動の変化による小氷河期と温暖期のサイクルの一環かもしれない。

異常気象や災害が増えている証拠はない。むしろ災害対策によって人的被害は減っており、費用対効果が高いのは、CO₂を減らす緩和ではなく、災害を防ぐ適応である。これはIPCCも認め、AR6の第2作業部会のテーマは適応だった。

日本政府も効果が不確実で莫大なコストのかかる脱炭素化より、熱帯の開発援助を優先すべきだ。本書もいうように、最善の気候変動対策は豊かになることである。