「国民の声を聞く」国では、絶対できない新首都建設

エジプトの首都カイロの東に建設されているニューキャピタル(新首都)の視察に出かけました。

老朽化し、交通渋滞が深刻化しているカイロ旧市街から首都機能を完全移転させ、何もない砂漠にゼロから街を作る。とてつもない計画です。

車で1時間ほど走ると、カイロ旧市街とは全く異なる巨大な新しい建物が見えてきます。

現在進められているエジプトの首都移転は、現政権のシーシー大統領がリーダーシップをとって進めている巨大プロジェクトです。

既に官公庁のオフィスは出来上がっており、実際に執務を始める官僚も出てきているようです(写真)。ここがわずか数年前には何も無い砂漠だったとは信じられません。

このプロジェクトに対しては、批判する人もいたようですが、権力を掌握した大統領の決断で一気に進められています。

日本でも、かつては東京一極集中を回避するために首都移転の検討されましたが、結局実現はしていません。

エジプトの場合は、広大な砂漠が活用できるメリットがあったから実現できたと思うかもしれません。

しかし、もし日本にエジプトと同じような広大な敷地があったとしても、このような大胆な政策は実現できないと思います。

岸田政権は「国民の声を聞く」ことを大切にしているからです。

一見良いことに聞こえてしまいますが、評価を気にしすぎるあまり内閣支持率や世論調査によって政策がブレてしまい、意思決定は遅れます。

長期的な視点で本質的に意味のある政策より、目先で国民にウケる口当たりの良いご機嫌取りのような政策ばかりが優先されます。

たくさんの人から民意を聞き、それをまとめていく政治手法が果たして正しい結果を導くのでしょうか?

民主主義とは、多くの人の声を反映しているようで、実は何も成し遂げていないのかもしれません。

エジプトの政治体制は、どちらかと言えば、ロシアや中国などと似ています。

このような政治体制が良いとは決して思いません。リーダーの誤った判断によって、致命的な失敗を犯してしまう属人的なリスクが存在するからです。

ただ明らかなことは、大胆な政策を猛スピードで進めるエジプトの実行力は、日本には無いということ。

そのような政治体制を選択している日本人は、変化を好まない国民だということです。

kokouu/iStock


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2023年7月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。