夕刊フジで安倍首相暗殺事件から一年たったのを機に、『安倍遺産(レガシー)』という連載を先週、行った。内容は以下の通りである。
① 戦後レジーム克服、欧米と共通の価値観持つ同盟を目指した安倍元首相 2018年パリ祭で受けるはずだった栄誉
② 秋篠宮家への一部誹謗は不可解 学習院OBが批判する悠仁親王殿下の筑波大学附属高校進学、さまざまな意味で良い選択
③ 自公連立の損得勘定、憲法改正には不可欠なわけ 連立解消すれば強力な野党誕生も
④ 米国の戦争は相手側の犠牲が多過ぎる 「広島訪問」を実現させた安倍元首相、オバマ政権との良好な関係に評価
⑤ 安倍元首相は「日本のドゴール」のような存在に 立場の違う人々とも対話、保守だけでなくリベラルからも評価
この記事に大幅に加筆した物は、メルマガで掲載している。
本稿では、このうち⑤の記事の前半に手を入れて紹介したいと思う。
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「日本のドゴール」のような存在に、安倍晋三元首相にはあってほしい。生前の安倍氏は、世界各国の世論調査でも、昭和天皇を上回る知名度を獲得した。私がフランスのオピニオン・リーダーたちのグループに入れてもらってドイツのコール首相と会ったとき、G7の首脳たちの名前を挙げて、最後に、「日本の首相はいつものように微笑んでいた」とだけいったものだ(海部俊樹元首相のこと)。
それが、日本にようやく出現した、世界の人々から顔が思い浮かべてもらえるリーダーだった。
フランスのシャルル・ドゴール元大統領について、フランス人が持つイメージはさまざまだ。「自由フランスの指導者としてナチスと戦ったレジスタンスの指導者」「大統領直接選挙による第五共和国の創立者」「冷戦時代に米ソの狭間で独自外交を守った愛国者」「西ドイツのアデナウワー首相とともに欧州統合の基礎をつくった人」などである。
ドゴールは、保守本流団結のシンボルとして機能し、旧ドゴール派である共和党が大政党としていまも存続することを可能にしている。その一方、リベラルな人にとっても一定の評価せざるを得ない英雄であり続けている。安倍氏にも、そういう存在になってほしい。
自分にとって安倍氏はこうだというのは、誰にもある。だが、それは一面にすぎない。相手によって発言のニュアンスは違った。いわゆる保守系の人は「自分たちこそ安倍氏の志を引き継いでいる」というが、それはずるい。
たとえば、同じ秘書官でも、第一次内閣以来の人と、第二次内閣での秘書官とでは、安倍氏の真意について語るニュアンスが違う。
一言でいえば、安倍氏は「保守派の愛国者」として軸はしっかり持っていたが、同時に立場の違う人々との対話もできた。
だから、バラク・オバマ元米大統領や、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領、中国の習近平国家主席、さらには、イラン、アラブなどの指導者すら「安倍氏と会ってよかった」と感じ、それが日本の外交を支えた。
これから、安倍氏の薫陶を受けた人たちは、安倍氏の言葉を常に振り返り、それを保守本流の基本姿勢として尊重しつつも、「安倍イズム」の多様な発展の可能性を封じてはならない。とくに、「裏切り者」などという言葉が安直に使われることには非常な疑問を持つ。
その2つの流れが、バランス良く共存することを願う。
特に経済政策は、そのときどきの状況に応じて君子豹変(ひょうへん)も必要な分野だ。専らデフレに悩んでいた時期の安倍氏の発言を金科玉条にすべきでない。比較して、福田赳夫元首相が偉いと思うのは、根っからの財政均衡論者だったが、不景気のときに副総理や総理をやったときは、初めて赤字国債を出すことすらしたのである。
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来週の8月9日(水)には、『民族国家の5000年史 出版記念講演会』を文京シビックセンター地下一階のアカデミー文京学習室で開催するが、その第二部は保守派の論客佐藤和夫さんと、この連載をテーマに対談する。
『民族国家の5000年史』(扶桑社)付きで2500円で、事前申し込みは特にいらないので、是非ご来場ください。