「理想の人生」に消耗してはいけない

黒坂岳央です。

これは今に始まったことではないが、「こういう人生が勝ち組、そうでない人生は負け組」みたいな理想の人生の押し付けは昔からずっとあった。時には赤の他人が勝手に押し付けて来たり、またある時は自分自身で理想の人生との比較をして勝手に卑屈になったり絶望してしまい。

忌憚なき意見をいえば、こんなしょうもないことに一度しかない貴重な人生を消耗するのは今すぐやめるべきだ。他人が考えた「理想の人生」に当てはまる人などいないのだから。

Yuji_Karaki/iStock

理想の人生は人の数だけ存在する

理想の人生とはなんだろうか?一昔前は「旦那はエリート社員で妻は専業主婦。郊外に一戸建てを持ち、家族と犬と生活。年に一度はハワイ旅行」みたいなイメージで、今は「FIRE」も1つの選択肢に加わったように思う。

しかし、人間という生き物はそう単純ではなく、以前になかった価値を得て無条件に幸福になるわけではない。極端なことをいうとたとえば大金を得たとしても、今度は為替の価値毀損による実質的な目減りや税金の重みを実感するようになり、「資産防衛」という新たな課題を認識したりする。またFIREして仕事をやめたら、今度は社会性とのつながりに悩むようになってしまったりする。逆に他人から見て気の毒に思えるような人生でも、本人は楽しんでいたりすることもある。

だからコモディティになった「理想の人生」なんて砂上の楼閣でしかない。本来、人の数だけ自分なりの理想の人生が存在するし、それを押し付けて嫉妬したり気の毒がったりは幻の中で生きるような錯覚でしかなく、徹底的にムダだと思うのだ。

他人は勝手に嫉妬したり見下す

人間は社会的な動物であるため、他人の人生と自分を比較して事実を不正確に解釈して、勝手に気の毒がったり嫉妬したりしてしまう。

筆者の知っている人に脱サラして自分のビジネスの拡大に挑戦中の人物がいる。彼はサラリーマン時代は優秀なビジネスマンで、年収800万円は20代後半で以上受け取っていた。しかし脱サラした初年度は年収は半分以下で、家賃の安い埼玉県郊外のアパートに住んでいる。

「リスクを取って起業するのだから、会社員より収入は5倍、10倍増えて然るべき」と考える人から見れば、この人は「負け犬」のように映るかもしれない。見る人が見れば、起業して損したと人生選択をミスと決めつけ、勝手に気の毒がるかもしれない。

だが、本人と会話するとそんな感覚は微塵もない。目を輝かせながら「今後が楽しみでしかない。やっぱり自分の人生を自分で舵取りするのは最高に楽しいですね。自分は絶対ここから頑張っていくっす!」みたいに夢を語る。

その逆に華やかな生活をしているように見える人物でも、内心では精神科にかかるほど毎日悩みまくっていて、でも周囲の人に話しても「いやあなたはすでに恵まれた環境に生きているではないか。感謝を忘れているのでは?」と無理解という刃が心に突き立てられる人もいるだろう。

他人が他人の人生を評価したり、理解することは不可能なのである。

他人を見て勝手に絶望する人たち

SNSは幸福より不幸の入り口になっているケースはとても多い。

無意味な他者比較などはその最たるものだ。盛りに盛られて人生の成功者のような投稿ばかりを見せつけられると、どうしても卑屈になり自分の人生が惨めに見えてしまう。だが論理的に考えればこれは愚かなことだ。自分の人生は何一つ変化していないのに、他人を見て勝手に絶望して勝手に自分の人生の点数をドンドン下げてしまっている。それでいて何か経済的見返りがあればまだしも、何もメリットはないのである。

筆者がオススメしたいのは「人生の理想はとことん自己満足でいく」ということである。勉強や仕事は結果を出してナンボなのでこれは除くとしても、何が楽しいか?何を優先するか?というのは他人の意見なんて一切見ずに自己満足で楽しめれば勝ちなのだ。

他人からみれば「結婚なんて搾取されるだけの欠陥だらけの前時代的な制度」と思われても、本人にとっては伴侶や子供とバタバタ人生を楽しんでいるかもしれない。また、マイホームは経済的合理性はないと批判する人がいても、本人が満足していたならそれは最高に理想の人生なのだ。

「理想の人生」は本来は自分にしか理解できないものである。人生を生きる中で何が大事で何がそうでないか取捨選択した中で徐々に見えてくるものであり、他人から押し付けられるものではないのだ。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。