防衛省は7月28日に閣議報告した令和5年(2023年)版「防衛白書」で、中国軍について、「作戦遂行能力の強化とともに、中国は、わが国の尖閣諸島周辺における領海侵入や領空侵犯を含め、東シナ海、南シナ海などにおける海空域において、力による一方的な現状変更及びその試みを継続・強化し、日本海、太平洋などでも、わが国の安全保障に影響を及ぼす軍事活動を拡大・活発化させている。(中略)また、台湾周辺での軍事活動も活発化させてきている。さらに、軍事活動を含め、中露の連携強化の動きが一層強まっている」などと指摘した。
実際、同日から翌二十九日にかけて、中国・ロシア両国の海軍艦艇(計10隻)が(北海道とサハリンの間の)宗谷海峡を抜け、日本海からオホーツク海へ入った。しかも、このうち9隻は、同月18日から23日にかけて、日本海で射撃などの共同訓練をしていた(防衛省統合幕僚監部発表)。白書はこう警鐘を鳴らす。
こうした中国の対外的な姿勢や軍事動向などは、わが国と国際社会の深刻な懸念事項であり、わが国の平和と安全及び国際社会の平和と安定を確保し、法の支配に基づく国際秩序を強化するうえで、これまでにない最大の戦略的な挑戦であり、わが国の防衛力を含む総合的な国力と同盟国・同志国などとの協力・連携により対応すべきものである。(太字は潮の補記・以下同)
また、「米中の軍事的なパワーバランスの変化」について、「インド太平洋地域の平和と安定に影響を与えうることから、南シナ海や台湾をはじめとする同地域の米中の軍事的な動向について一層注視していく必要がある」とも指摘。
昨2022年10月に米バイデン政権が公表した「国家安全保障戦略」(NSS)のなかで、中国を「米国にとって最も重大な地政学的挑戦」であり、「国際秩序を再構築する意図とそれを実現する経済力、外交力、軍事力、技術力をあわせ持つ唯一の競争相手」と位置づけたうえで、「中国は、世界をリードする大国となる野望を抱いており、急速に近代化する軍事力に投資し、インド太平洋地域での能力を高め、米国の同盟関係の浸食を試みているとしている。そして、世界は今、転換点にあり、中国との競争力を決める上で今後10年は決定的な意味を持つとの考えを示した」とも指摘した。
最新白書は、「諸外国の防衛政策など」と題した第3章のなかで、「第2節 中国」を、国別で最多の31ページを割いて紹介、「米国と中国の関係など」と題した次節を加え41ページもの分量で詳述した。防衛省が抱く警戒感の深刻さが伺われる。なかでも、中台関係に関する記述に注目したい。
中国は、台湾周辺での軍事活動を活発化させている。台湾国防部の発表によれば、2020年9月以降、中国軍機による台湾周辺空域への進入が増加しており、2021年には延べ970機以上が同空域に進入し、2022年には前年を大きく上回る延べ1,700機以上の航空機が台湾周辺空域に進入した。また、同空域への進入アセットについては、従来の戦闘機や爆撃機に加え、2021年以降、攻撃ヘリ、空中給油機、UAVなどが確認されたと発表されている。
(中略)中国は、台湾周辺での一連の活動を通じ、中国軍が常態的に活動している状況の既成事実化を図るとともに、実戦能力の向上を企図しているとみられる。
加えて、「台湾をめぐる中国の軍事動向」と題した「解説」欄で、こう警鐘を鳴らす。
中国は、台湾周辺における一連の活動を通じ、中国軍が常態的に活動している状況の既成事実化を図るとともに、実戦能力の向上を企図しているとみられます。2022年10月の第20回党大会において、習近平総書記が両岸関係について、「最大の努力を尽くして平和的統一の未来を実現する」としつつも、「武力行使の放棄を決して約束せず、あらゆる必要な措置を講じる選択肢を留保する」との姿勢を表明する中、このような中国軍による威圧的な軍事活動の活発化により、国際社会の安全と繁栄に不可欠な台湾海峡の平和と安定については、わが国を含むインド太平洋地域のみならず、国際社会において急速に懸念が高まっています。
他のポイントについては、7月29日付「朝日新聞」朝刊記事を借りよう。
ロシアについては、ウクライナ侵攻の長期化で通常戦力が大幅に損耗している可能性を指摘し、「核戦力への依存を深めると考えられる」と分析。中ロが日本周辺で繰り返し実施している爆撃機や艦艇を使った共同活動は「わが国に対する示威活動を明確に意図したもの」とし、中ロの連携強化に「重大な懸念」を表明した。弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮については「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」と強調した。
加えて言えば、同日付朝日朝刊が別の記事で、こう報じている。
朝鮮の朝鮮中央通信は28日、「戦勝記念日」と位置づける朝鮮戦争の休戦協定締結から70年の27日夜、平壌の金日成広場で軍事パレードが行われたと報じた。金正恩総書記はロシアのショイグ国防相、中国共産党の李鴻忠政治局員と並んで観覧。米国と対立する3カ国の結束を誇示する狙いがあるとみられる。
軍事パレードで、ICBM「火星18」や「火星17」、ドローン兵器を含む最新兵器の映像を公開し、自身の軍事力と中朝ロの結束を誇示した。白書を報じた朝日記事は、こう結ぶ。
白書では「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している」として、防衛力の抜本的強化を訴えた。昨年12月に安全保障関連3文書を策定し、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を決めたことや、23~27年度の防衛費をこれまでの1.5倍超の約43兆円に増やすことなどを紹介している。(田嶋慶彦)
そのとおりだが、朝日は今年五月三日付「社説」で「岸田政権が踏み切った敵基地攻撃能力の保有」を『日本の防衛の基本方針である「専守防衛」を空洞化させるもので、判断を誤れば、国際法違反の先制攻撃になりかねない。相手国からの攻撃を誘発する恐れもある』などと批判していた。
最新白書を虚心坦懐に読めば、そうした批判が当たらないことが容易に理解できる。今回、朝日にしては珍しく「敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有」を咎めなかったのは、そうした理由なのだろうか。一購読者としては、ついに朝日が悔い改めたと思いたい。