日本はアルゼンチンのようになるのか? 両国の比較から見える類似性

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必要なだけ紙幣を増刷する国

アルゼンチンはイタリアからの移民も多く、独特のスペイン語を喋る国だ。アルゼンチンのスペイン語はウルグアイと同様に、イタリア語に影響されて抑揚が強い。

20世紀初頭には世界経済でトップの一角を担っていたアルゼンチン。その国が100年を経過した現在、名目GDPで世界23位、8度のデフォルトを繰り返し、昨年のインフレは95%。今年は136%になることが予測されている。

アルゼンチン経済後退の根本的な問題は、慢性的な財政赤字にも拘らず、必要なだけ紙幣の増刷をこれまでして来た国だということだ。それは今も続いている。アルゼンチンのインフレは1945年から始まった。財政緊縮ができない国なのだ。

それまでのアルゼンチンは1810年から1944年までインフレは3%を超えることはなかった。(2018年1月13日付「インフォバエ」から引用)。

政界恐慌以後アルゼンチン経済は低迷するが、そのあと第2次世界大戦では中立を守り、食糧の輸出で経済は復活の兆しを見せた。

ところが1945年からアルゼンチンのインフレの発生が始まるのである。それはペロン将軍の政権への登場と重なるのである。ペロン将軍は経済を復活させるのに基幹産業を国営化した。一時的に経済は繁栄した。また同時に労働者を保護し賃上げを実施した。更に公共事業も拡大させた。これらの政策はアルゼンチンの大国への復活を模索させるまでなった。

ところが、その結果、政府の歳出の増加を招くことになった。何しろ、ペロン将軍は国内産業の発展は図ったが、輸出は疎かになっていたから外貨で財政不足分は補えない。しかも、国内で大半のものが手に入るので自給自足の経済を推進し、外国からの投資も避けた。そのような過程から財政は赤字に転落。そこでそれを補填するのに政府は紙幣を増刷。アルゼンチン政府は現在までこのやり方を踏襲している。

似たようなことを日本もやっている。日本は国債を発行して紙幣を増刷している。

外国から資金を容易に調達できないアルゼンチン

アルゼンチンは半世紀あまりの困窮した経済でデフォルトを繰り返して来た国だ。IMFから440億ドルの負債も抱えている。国家への信頼性は乏しい。そのような状態では世界から資金を容易には調達できない立場にある。それを上手く利用しているのが中国だ。中国から多額の資金の融資を受け、しかも人民元によるスワップ取引も今年に入ってその枠を拡大させている。

中国への依存を皮肉ってアルゼンチンの一部市民は「我が国は『アルヘンティナ(Argentina)』ではなく、『アルヘンチナ(Argenchina)』だ」というそうだ。

ペロン党の長期政権の弊害 

ペロン将軍によってアルゼンチンは一時的には繁栄した。その功績を讃えて誕生したのがペロン党である。それは現在正義党と呼ばれている。この政党が現在まで政権に就いている。勿論、例外もある。途中クーデターで軍事政権が誕生したことと、正義党出身でない大統領が3人登場したことだ。

しかし、正義党以外の大統領の誕生は断続的で続かない。その後正義党がまた政権に復帰するという現象を繰り返している。勿論、正義党出身の大統領がすべて同じ政策を実施するのではなく、自由主義を前面に出す政策を取ったメネム元大統領や、統制経済を実施しようとしたキルチネル元大統領もいる。

しかし、根本的に正義党は社会主義に傾倒した政党である。統制経済と言えば、例えば、国内で牛肉が値上がりすると輸出の向けの牛肉を国内に向けさせて市場で供給が需要を上回って価格が下がるようにさせる。或いは、一定の期間政府は価格を凍結させるといった手段を適用している。このような策で成功した試しはゼロ。それでもそれを繰り替えしているのが正義党である。

日本の自民党も無駄なことを繰り返しやっている。将来性のない大企業に政府は補助金を出して倒産させない。或いは銀行の余剰人員を銀行が長く解雇できないようにして逆にそれは企業や銀行を弱体化させてしまう。それが分かっていても日本政府はそれを繰り返している。これらはすべて経済成長にはマイナスであるが、それを今も踏襲している。

紙幣増刷の規模はGDPの4倍以上

次にアルゼンチンの紙幣の増刷について触れると、2017年のアルゼンチンはGDPの4.2%に相当する金額の紙幣を増刷している(同上紙から引用)。また2021年はGDPの4.8%に相当する紙幣の増刷している。その紙幣量が多量なため、スペインの造幣局でもその増刷に応援したという経緯もある。それが意味するものは高いインフレ率である。

それゆえにアルゼンチン市民の自国通貨ペソへの信頼はゼロ。どの市民も米ドルを持ちたがる。今年だけでペソは公式レートで対ドル31%値下がりしている。ペソだと「今日の価値が明日にはそれが切り下げられていた」ということはよくあるからで、この不安が逆に今日の消費を煽る現象に繋がっている。明日になると同じ価格で同じものが買えなくなる可能性があるからだ。だからスーパーでも頻繁に商品の値札を変えなければならないので開店時間が良く遅れることあがある。

紙幣の増刷は日本も同じことをやっている

日本もアルゼンチンと同じようなことをやっている。国債の発行と引き換えに紙幣の増刷である。

日本の場合は国債を引き受けるだけのキャパが民間の金融機関がまだある。また日銀も買い取っている。そして現在の日本政府の負債は地方債も含めGDPの250%に及ぶ1200兆円まで到達している。

この先、その比率がまだまだ増えても日本は大丈夫だという意見もある。しかし、これから迫って来る、関東直下型地震と南海トラフが発生すれば、それ以後10年先までにGDPの4倍に相当する復興費用が必要になって来る。しかも、巨大の自然災害が起きるとGDPも減少するから上記4倍以上の復興費用が必要になる。それを国債の発行で補填することなど不可能である。

仮に理論上できたとしても、それだけの負債を抱えるようになると世界から日本への信頼は失墜し、日本円は暴落する。財政破綻に至るであろう。そうなればインフレは高騰してアルゼンチンが経験しているハイパーインフレと同様のインフレを抱える可能性もある。

アルゼンチンの高騰インフレの起因はペロン将軍の政治

またアルゼンチンで正義党がほぼ単独で長年政権を担っているが、高騰インフレと巨額の負債を抱えるようになった起点は多くのアルゼンチンの人々が今も崇拝しているペロン将軍である。正に、ペロン将軍が正義党の体質の礎になった人物で、それは結論的に言えばアルゼンチンのその後の発展には彼はマイナス要因になっているということも否定できない。

それと同じような意味で、日本の吉田茂は戦後の日本の復興に貢献した宰相として表敬されているが、官僚政治を作ったのは正に吉田茂だ。政党人は消滅した。そして今、日本は官僚政治によって発展しない日本になっている。

アルゼンチンの財政赤字の要因

アルゼンチンでなぜ財政が常に赤字かという問題を取り上げると、まず最初に上げられるのが市民への補助金である。市民に提供する光熱費の補助金は国家予算の8.8%を占めている。GDPで見ると、2.3%に相当する。また教育費の6.4%や健康保険費の5%を上回る金額である。(2022年8月18日付「BBC」から引用)。

光熱費への負担が大きいのも、2008年からエネルギー資源が輸入依存に転じたからである。自然資源に恵まれたアルゼンチンであるのに、これまでこの分野への発展は図っても成功に至ったためしがない。だからいつまでも輸出は肉類と穀物が主体になるのである。

更に問題はアルゼンチンでは公務員の多さがある。23ある州の中で13州では公務員の方が民間企業で働いている人よりも数が多くなっている。これもペロン将軍の時代から公営企業の多さが起因となっている。また満期になって年金をもらう人は23%しかおらず、大半は早期退職者が多い。(同上BBCから引用)。

GDPに占める公的企業は60%で、しかもライバル企業なし。また民間企業でも200社の大手企業に対して60社はライバルがいないという状態にある。だから、価格の設定も企業の都合の良い価格設定になる傾向がある。それもまた、インフレを誘発する要因になっている。また部品メーカーは少ない。高騰するインフレも手伝って工業品のアルゼンチンからの輸出は競争力に欠ける。それがまた外貨不足を招いている。アルゼンチンの輸出規模は世界191カ国の中で137位にある。

日本は輸出は盛んでもそれが社員の昇給に繋がっていない

日本は輸出ではトップレベルの国の一つになっているが、円安が味方して輸出で企業は儲けている。ところが、それが逆に企業のデジタル分野などの発展が疎かになっている。その上、企業はそれを社内留保にして社員の昇給にあてようとしない。物価が次第に上昇し、税負担も増えている。だから社員が使える可処分所得は次第に減っている。

その影響もあって貧困者が増えている。現在の日本の貧困率はG7の中で米国に次いで2番目に高い。しかし、これから日本経済がさらに後退して行くと貧困層も当然増える。アルゼンチンの貧困層は50%に達している。

そして少子高齢化で2040年頃に日本では1.5人の労働者が1人の高齢者の社会保障を負担して行く率になる。そうなると社会保障は破綻する。GDPの減少も必至となり、国は貧困化する。

アルゼンチンとは異なった過程を歩むことになるが、日本もかつてのアルゼンチンと同様に世界経済のトップの一角を担っていたが、これから次第に衰退して行く運命にある。それを避ける為には外国からの移民を受け入れて就労者の増加と生産性を挙げてひとりひとりの収入を増やすことが今のところ唯一の危機を避けるための手段であろう。

将来、日本でも移民のこどもが日本の首相になるような国になっても良いと思う。むしろそのような環境の中で育った2世の方が伝統ある日本の精神を受け継いで行く可能性が高いかもしれない。