「優秀な人を真似する」が難しい理由

黒坂岳央です。

学問やビジネスで言い尽くされているアドバイスがある。それは「優秀な人のメソッドをとにかく真似る」ということだ。事実、これは大変効果的である。自分自身も日々、記事や書籍、動画で「これは使える」と思ったものは即座にメモをして自分に取り入れるようにしている。

しかし、効果的だと言われているにも関わらず、実際にこれができる人は驚くほど少ない。見た目だけ真似をする人はいるものの、特に技術面では自己流のままというケースをよく見る。なぜ難しいのか?

izusek/iStock

猿真似の圧倒的な強さ

ビジネス界では真似することの効果は多くの人に知られており、TTP(徹底的にパクる)という略語があるほどである。「猿真似なんてみっともない。プライドを持って自分流でやるべきだ」という意見が聞こえそうだが、ビジネスは結果がすべての非情な世界である。有力者の技術を取り入れて成功した方が、すべてをオリジナルで永遠に日の目を見ないより価値があるのだ。

猿真似の強さを知りたければ、いい例がいくつもある。戦後の日本だ。欧米列強に追いつけ追い越せの精神で成功モデルをトラッキングし、日本は奇跡の経済的成功を収めた。中国もパクリと笑われながらも、いつの間にかもはや笑えないレベルまで発展してしまった。

また、YouTuberの中でも、有名なインフルエンサーの話し方や外見を真似してウケている人がいくつもいる。視聴者は「確かにそっくり!」と笑い、時にはボケ役として本人とのコラボ登場を果たし、しっかりビジネスを成功させている。猿真似は強いのだ。

会社員は「真似力」が必要

会社員でも真似をする必要性は数多くある。

仕事ができる先輩社員の仕事術や技術を真似することで、最短最速で仕事できるようになる。自分自身、会計職についていた時に電卓を使っていたら、仕事のできる先輩社員から「効率を高めるためにできる限りExcelを使え」と指導され、マクロや関数を教わった。結果、短い期間で見違えるほど仕事の技術が向上したと感じた瞬間があった。これは先輩社員の仕事を完全に真似ることで、短い期間で仕事ができるようになった事例である。

会社の新人なんて「真似力」がすべてと言っていい。なんせ入社直後の新人は最初は何も役に立てない。だから一日でも早く周囲の社員の仕事をひたすら真似する。技術が追いついた時点で、ようやく自分流の仕事の進め方を考えていく流れが理想だろう。

選り好みするから失敗する

しかし、真似をすることは実際大変難しい。ほとんどの人は頭でわかっていても、有力者の真似を完結させることはできないだろう。なぜだろうか?

まず1つには選り好みするからである。人は一般的にやるべきことではなくやりたいことをしてしまう。自分は英語を教えているが、「まず英単語を学びましょう」とその必要性とともにメソッドを伝えても、言われた通りにせずいきなり英会話をやってしまう人は少なくない。また、ある結婚相談所の経営者は「あなたはこういう人がおすすめ」と提案しても、ことごとく条件や属性とは合わない人にばかりに応募すると嘆く。結果、まったくお見合いが成立せず、ひたすら振られ続ける人は少なくないという話がある。

うまくいかない人は成果を出すことより、目先の自己満足を優先してしまう。いくら効果的だと論理的に説明されても、自分がやりたいことを優先してしまうようでは、真似を完結できず結果は出せないのだ。

適当にやるから失敗する

もう1つはリサーチ力不足である。真似をするのは簡単だと思われがちだが、実際に効果を出すほど真似をするのは大変難しい。なぜなら時間と忍耐を使って真似をする対象のリサーチをしなければいけないからである。自分は「この人の書く文章はすごい」と感じた対象を見つけた時、その人物が書いた300ほどあった過去記事のすべてを読み、1記事ごとに優れた表現や文章構成の技術、言い回しなどのすべてをメモを取り、自分の記事に取り入れた。

また、YouTube動画で優れたチャンネルを見つけた時も同じように、全動画を見てひたすらメモを取った。トータルで3ヶ月くらいリサーチに時間をかけたが、そのおかげで文章や動画の技術を取り入れ大きく向上した。1、2つだけを見て表面だけを真似してもまったく足りない。やるなら全範囲を網羅的に徹底的に時間をかけるくらいでなければ、技術の真似はできないのだ。

真似は悪いことではない

最後は真似の効果を理解できていないことだ。人によってはプライドが邪魔しているかもしれない。世間一般的には「真似をすることはだめなこと」というイメージがあり、最初さから最後までオリジナルで勝負しようと考えてしまう(もちろん著作権侵害はNGだ)。だが真似は本当にだめなのだろうか?

日本にはコンビニが複数社あり、競合は先駆者を真似たといえるかもしれない。だが、これによりほどよく競争原理が働きそれぞれに魅力的な商品や特色を出して消費者は選択する豊かさを享受している。

1社だけで独占している業界なんてほぼない。出版業界でも英会話業界でも似たような商品サービスを出すライバルだらけだ。GoogleやAmazonにも先駆者はいたが、今は競争に生き残ってリーディングカンパニーとして消費者が支持している。オリジナルにこだわりすぎる必要はない。そば屋の大将も予備校講師もみんな先駆者から知識や技術を真似て今があるのだ。なんなら赤ちゃんは親の会話を真似て育っていく。つまり、みんな真似をして今があるのだ。

徹底して知識や技術を真似するのはカッコ悪いことではない。なぜなら誰にでもできることではないからだ。優秀な対象を真似る、というのはもはや技術であり成功するための一要素と考えても良いのではないだろうか。

 

■最新刊絶賛発売中!

■Twitterアカウントはこちら→@takeokurosaka

YouTube動画で英語学習ノウハウを配信中!

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。