忍び寄る物価高、まだまだ上がるモノの価格

コロナ禍後半からの欧米の物価高は酷いものでこれでは消費行動が維持できないと思っていたのですが、人々はそれでもどん欲にモノを求め、サービスを求め、不動産を買い、旅行をし続ける逞しさに「みんな、持つものを持っているのだな」と改めて感心します。

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そんな中、ひたひたと忍び寄った日本のインフレに対して「一過性のもの」という前提を最後まで崩さなかったのが黒田前日銀総裁。23年末にはインフレ率は元に戻る、と断言し続けたのですが、外すことになると思います。そう考えると黒田さんの10年間はインフレ目標の2%達成に絶対の自信を持っていたと思えば、任期末期に想定外の理由で2%を飛び越えたところで「どうせ下がるさ」と言ってしまうところにあまのじゃく的なところも無きにしも非ずでした。

本日のブルームバーグには日銀出身、東大大学院教授の渡辺努教授が日銀は金融政策の正常化思惑を招かぬよう物価水準を実態より低く抑えていると述べたと報じています。要は24年、25年度の日銀の物価見通しが低すぎるというわけで意図的であり「間違っている」と断言しています。植田氏に正面切って反論が出てきたことは面白い展開が期待できると思います。

日経に「脱デフレ見越し高額消費 高所得層、時計・服飾でけん引」とあり、高級時計などが19年比で83%増、宝飾品が145%増で高所得者になるほどこれら高額商品への消費が伸びるとあります。高所得者になれば高額商品の消費が伸びるのはごく自然の話で目を閉じていても分かることです。理由は生活に必要な基礎支出の部分を超えた分は貯蓄に回すか、消費するしかありません。一定年齢になると家のローンは終わり、子供も巣立っているので夫婦の基礎支出は小さくなる一方、一定の所得があれば余剰は当然生まれやすくなります。

特に少子化で子供がいない人も多くなったため、それらの人は自分限りで家が終わるのですからお金をむやみに貯めてもしょうがないわけです。「ちょっとぐらい贅沢しようかな」というのはそのあたりもあるし、もちろん、場の雰囲気もあります。自分のお友達が何か高級品を購入した話を聞けば「自分も我慢していたあれ、買っちゃおうかな」となるでしょう。

日経は「ブランド品は価格上昇のピッチが急なため、これから値上がりが進むと予想する消費者が『今が買い時』とみて旺盛な需要につながっている。脱デフレを先取りする消費スタイルが日本でもみえてきた」と解説してます。この指摘は意味があります。高額所得者層はマネーに敏感な人が多い中、ブランド物=舶来品の価格は日本市場に対してかつてのように特別視することなくポンポン上げることで日本の消費物価の底上げ効果が生まれると予想するわけです。

私が特に注目しているのは不動産価格で東京など都市圏の価格は目を見張るものがあります。マンションへの強い引き合いもあり、この10年で概ね4割程度上昇しています。(場所によります。)これは80年代のバブル期には及びませんが、ミニ不動産祭りといってもよいでしょう。この背景はいくつかありますが、資材価格と労賃の上昇している上に適正価格で仕入れられる土地が減っていることがあります。それを受けて中古市場も引っ張られるのが流れです。

しかし人口減でこんな価格で誰が買う、なのですが、外国人の底支えは確実に無視できないレベルにあるとみています。戸建てではなく、マンションというのがミソで管理が楽なのでセカンドホーム的に購入する人も当然います。以前「何かあった時のために疎開できるところを確保する話」を申し上げましたが、一部の国の人にとっては東京や大阪、福岡など東アジアとの利便性が良いところは絶好の疎開地になるのです。

バンクーバーやトロントの不動産が中国人により押し上げられた事実はあまりにも当たり前すぎる話ですが、これが日本でも起きる公算はあります。ではカナダ人はそれにどう反応したか、といえば結局、彼らも溢れんばかりの財を成したわけで中国人がかつて買い上げた不動産の影響力がなかったと言えばうそになるでしょう。

ところで日本は資源国ではないけれど新たな資源国になりそうです。ここを黒田前日銀総裁は甘く見た、これが私の今日、指摘したいポイントです。日本が求めているのは石油や鉱物資源。これは世界物価ですから日本だけが恩恵を受けるわけではありません。よってこれが値上がりすれば日本の物価も当然上がります。では日本が新たな資源国という部分は何か、といえば水です。これはあと5年もすれば輸出ビジネスに転換できると思います。世界は乾いているのです。

では、その水をふんだんに使ったコメ。これが小麦の不作や供給不足の代替になる公算はあります。カリフォルニア米は長年日本産コメの半額以下でした。カナダでは価格差が縮まってきており、報道によればアメリカの一部ではほぼ並んでいるとあります。コメは栽培に水を大量に使う点で小麦よりもはるかに贅沢なのだ、という意識が生まれれば日本のコメは飛ぶように売れるようになり、日本人の胃袋に収まらないという笑えない話もあるのかもしれません。

コロナはあらゆる常識を打ち壊しました。私が見る次の試練は異常気象と「かの国からの脱出者」だとみています。それまでの当たり前が当たり前ではなくなった時、物価は想定外に飛び跳ねることもある、ということを肝に銘じておいた方がよいと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年8月30日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。