サラリーマンの頃に起業について誤解していたこと

黒坂岳央です。

時々、プライベートで付けている日記を読み直して、過去の自分と対話することがある。「この頃は何もわかっていなかったんだな」と未熟だった自分を懐かしんでいる。

日記を読み返して特に面白いなと思ったのは、サラリーマン時代に起業について誤解していたことが多かった点だ。本稿で取り上げたい。

west/iStock

1.起業すると収入が不安定になる

「起業すれば月収1000万円の月もあれば、0円の月もある。いつ収入がゼロになるかわからない。多少売れても贅沢はできない」と極端に考えていた。確かにリスクヘッジを考えなければこういうことは起こり得る。2020年に外出自粛があった時は、飲食店や宿泊業で売上がほぼ0円に落ち込んだ店舗はその象徴だろう。

しかし、工夫すれば0円という極端にネガティブなことはめったにない。たとえば収入源を複数持っておけば、1つの収益源が落ち込んでも他の収益源が助けてくれるという状況を作ることができる。実際に自分はそうしている。

また、新規の売上が出続ける施策と仕組みを作れば、たしかに売上の変動はあっても下限値で十分豊かに生活できる収入のラインを確保することは可能だ。イメージ、できる営業マンはたとえ不調時でもそこそこ売上を作る実力があるというものである。件の外出自粛についていえば、素早くフードデリバリーにスイッチして息を吹き返した店舗もあった。

結局、起業しても実力があれば、収入の下限値をかなりの程度引き上げる事ができるのである。

2.何にも縛られず自由に生きられる

起業して一人社長とかフリーランスになれば、確かに上司や部下はいないので自分を縛るものはないように思える。自分自身、基本的に一人でできる仕事しかしていない。その気になれば、いつでもどこでも遊びに行くことはできる立場ではある。気分転換に昼間から料理教室にいったり、北海道フェアで買い物をすることもある。

だが、永遠に完全自由はありえない。たとえば記事や動画を出す発信活動をする立場は発信をやめることは現実的ではない。やめればすぐに存在を忘れ去られてしまう。チャンネル登録者が10万人規模のYouTuberでも1年、2年休んで再開すると、ほとんどゼロに近い再出発になってしまっているケースをよく見る。やめたら終わりなのだ。しかも視聴者側も目が肥えて来るので、飽きられないように自分が成長したり工夫が必要になる。そのために自己研鑽に励んだり、勉強したり、経験を積みに出かけたりとしっかり労働をしないといけない。

知人は物販の会社の一人社長をやっているが、毎日宅配業者が何回も集荷と発送に来るのでコンビニに買い物に出かけることもできないといっていた。忙しさを楽しんでいるが、明らかに会社員の頃より自由はなくなっている。

顧客を持たない専業トレーダーも忙しそうだ。米国雇用統計の発表に合わせて昼寝をして夜中起きたり、遊園地デートに来ている時も相場を気にしたりだ。

3.人脈が大事

自分は起業したら人脈がないと生きていけないと思っていた。実際、知人の会社経営者は半分飲み会、半分人脈作りで頻繁に飲み会に出かけている。飲み会で知り合った相手の商品を新規で取り扱ったり、商品在庫確保に苦労した時に融通してもらったりと助け合いをしている。また、コラボでビジネスをすることもしている。

だが、自分の場合は昔からチームプレイがとにかく苦手で、仕事の進め方や戦略は自分だけで全部決めたいという価値観がある。見る人が見れば、それではいつまでもスケールせず、不器用で下手くそなビジネスマンだと評されるかもしれない。だがそれでも自己満足的な結果を得ているのでこのままでいいと思っている。人脈作りに精を出して、ビジネスをスケールし、仕事で助け合いやコラボをしないと生き残れない、ということはない。やり方は自由なのだ。

4.ずば抜けた才能が必須

最後は起業にずば抜けた才能が必須という誤解である。確かにまったく無能で才能がないというのでは難しいかもしれない。だが、突出した能力なんて要らない。

自分は英語を教える仕事をしているのだが、特別英語がずば抜けてすごいという感覚はない。自分より英語が上手い人はいくらでもいるのはよくわかっている。だがそんな凡庸の自分を熱心に支持してくれる人はいるのだ。

自分の強みはずば抜けて高い英語力を持つことではなく、勉強をわかりやすく、楽しく、忙しい社会人でも継続しやすい勉強法を教えるという点にあると考えている。これには才能は要らない。何をしてもらえば相手は喜ぶのか?助かるのか?をずっと考え続け、1つずつ試しながら反響が良かったものだけを残し、イマイチだったものを削除していくことを繰り返すだけである。

サラリーマン時代は「起業する人は凡人とは違う天才的な人ばかりだ」と思っていたがそんなことはない。先日、街の小さなラーメン屋の店主を特集する番組を見たのだが、店主は「毎日休まず続けてきただけ」と言っていたのが印象的だった。結局「やめずに続けること」が一番の秘訣なのかもしれない。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。