顧問・麗澤大学特別教授 古森 義久
アメリカの最新の世論調査でドナルド・トランプ前大統領への支持率がさらに急増という結果が出た。トランプ氏への4回にもわたる起訴処分が同氏への人気をかえって高めるという皮肉な現象が改めて裏づけられた。
共和党の予備選の指名争いでは10人ほどの候補者のなかでトランプ氏への支持率が突出しての独走状態となった。実際の選挙戦はすべて2024年であり、今後またどんな変動が起きるかはわからないが、トランプ氏の動きが主体となるという全体図が明確となってきた。
この世論調査は、アメリカの大手新聞ウォールストリート・ジャーナルが全米合計1500人の登録有権者を対象に8月24日から30日の間に実施して、その結果を9月2日に発表した。全体としてその結果はトランプ氏の人気上昇を裏づけたという点で幅広い関心を集め、トランプ氏の動向を占う論議の波紋を広げた。
同調査結果によると、共和党の登録有権者の間では約10人の候補のなかで、トランプ氏への支持が全体の59%を占めた。この同氏の支持率は第1回目の起訴の後の今年4月の時点では48%で、その後の3回の起訴にもかかわらず、11ポイントも上昇した。
一方、共和党候補の間では支持率で2位についていたフロリダ州の現役知事のロン・デサンティス氏は今回の世論調査では13%の支持率となり、トランプ氏より46ポイント低いという結果が出た。デサンティス氏の支持率は今年4月には24%だったから大幅の人気後退だといえる。
なお今回の調査では共和党の他の候補たちも元国連大使のニッキー・ヘイリー氏が8%、前副大統領のマイク・ペンス氏が2%と、全員1ケタの低支持率で、トランプ氏の突出した独走状態が示された。このため一時はトランプ氏とデサンティス氏の正面対決かともみられた共和党予備選挙は現状ではトランプ氏対他の候補全員という構図となった。
トランプ氏に対する今年3月末から8月中旬までの合計4回の起訴処分と同氏の支持率への関連についても、今回のウォールストリート・ジャーナルの世論調査は興味ある結果を生み出した。
まず共和党支持層の60%が一連の起訴はみな政治的動機でなされ、なんの利益もない、という意見に同調した。さらに78%がトランプ氏の2020年以来の大統領選集票結果の否定や挑戦は合法的だとみなすと答えた。
そのうえに起訴の結果、トランプ氏へ投票する意欲が強くなったと答えた人が共和党支持者全体のなかで48%、逆に起訴によりトランプ氏への支持の意欲が減ったと答えたのが全体の16%だった。またトランプ氏支持と答えた人のなかで76%がこんごも実際の選挙までトランプ氏に投票する意思を変えることはない、と答えたという。
こうした数字は一連のトランプ氏の起訴が共和党支持層ではトランプ氏への支持をかえって高める効果を招いたことを明示したといえる。
さらに同調査によると、来年の大統領選でバイデン大統領とトランプ前大統領の1対1の最終選挙となった場合、民主、共和両党の支持者全体では両候補への支持率がともに46%という結果が出た。この大統領選に第3の候補が出た場合、バイデン氏への支持が39%、トランプ氏支持が40%と、トランプ氏が僅差ながら優位に立つこ見通しも示されたという。
各候補者の優劣を単一の世論調査の結果で即断することはもちろんできないが、同時にこの時点でのアメリカ国民の政治志向をとらえたという点ではこの調査の意義は大きい。とくに民主党傾斜の検察当局により次々と4回も起訴されたトランプ氏が逆に支持率を高めたという現実も実際の選挙の最終結果を占ううえで、大きな意味を持つだろう。
■
古森 義久(Komori Yoshihisa)
1963年、慶應義塾大学卒業後、毎日新聞入社。1972年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。麗澤大学特別教授。著書に『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす』『米中激突と日本の針路』ほか多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2023年9月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。