親の年金に依存しているから死んでもらっては困る。だから高齢の親が胃ろうのチューブや人工呼吸器につながれていても、意思疎通ができなくなっていても生き続けてもらいたい。そんなケースが現実にあるらしい。ネットのニュースでも見たことがあるし、現役の医師・杉浦敏之氏による著書「死ねない老人」でも取り上げられている。いわゆる「8050問題」が引き起こす事例の一つと言ってよいと思う。
定年はまだまだ先の話、という方もいると思うが、ちょっと想像してみてほしい。たとえば(再就職するとしても一旦)定年退職する頃に息子や娘が何らかの事情で家に戻ってきたとする。しばらくして「再出発」してくれればよいが、仕事が見つからなかったり心の病になったりしてその後もずっと家にいて互いに年を取ると、いずれは「8050」状態となる。
私の昔の知人で、会社員だが定年間近で、もう若くはない無職で引きこもりの息子と二人暮らし、という男性がいた。「8050予備軍」といったところか。
うちの近所にも似たような高齢の親子(同じく父と息子)がいた。そのまま年月が過ぎ、息子は相変わらずで、自分は老いていき、しまいにはベッドの上で身動きもとれずに無理やり栄養を体内に注入されて生かされ続けるなんて最悪だ。
もし患者本人が(脳や心臓の疾患で突然意識不明になった等により)意思表示できない状態の場合、医師のほうから家族に延命を勧めるケースもあるそうだが、基本的にはどうするか尋ねるので、「父を死なせないでください」と言われたら医師は全力でそれに応えるだろう。
病院に居続けるのはお金がかかるので、年金を目当てにしたところで病院への支払いでほとんど消えてしまうのではないか、と考える方がいるかもしれないが、調べてみたところ「高額療養費制度」を利用すると患者(患者の家族)への負担はそこまで大きくない(参考:年金受給者が高額療養費制度を利用した場合、自己負担はどれくらい?)。年齢や収入にもよるが、1か月5万7600円~程度だ。
しかし、この金額で済んでいるのは国が費用の大部分を負担しているからだ。つまり、ただでさえ増え続けている国の社会保障費がさらに増えることになる。
人生の終盤にこのような事態を避けるためには、あらかじめ終末期医療に関する自分の考えを家族に伝えておかねばならない。その、まさに家族こそが理解してくれそうにない場合は、自分の意思を書面で示したもの(事前指示書)を主治医などに渡しておくことだ。
「縁起でもない」話をしよう。それをしたからといって死神が寄って来ることなんてない。もしそうなのだとしたら、私なんかとっくに死んでいる。
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田尻 潤子
翻訳家。本業は翻訳だが、「終活ライフケアプランナー」の資格を持つ。訳書には「「敵」(ヤバイ奴)に居場所を与えるな」(ルイ・ギグリオ著)がある。ウェブサイト:tajirijunko