都内駅前で無許可フルーツ販売車に突撃取材した結果

黒坂 岳央

黒坂岳央です。

「首都圏の駅前で無許可でフルーツを販売しているトラックと販売者の正体は?」というテーマでテレビで解説させてもらった。

※番組はTVerで視聴が可能。

https://twitter.com/un_touchable_tv/status/1704269137050992944

昨今、都内各所で果物を無許可で路上販売する車の目撃情報がSNSを中心に広がっている。不審な点がいくつもあり、中には「売られているフルーツは盗品なのでは?」という意見も出ている。実際に移動販売車へ突撃して、売られているフルーツの試食や購入をした上で調査したが、結果として噂通り怪しげな点が複数確認された。

盗品の桃が売られている可能性

最大の不審な点は、販売されているフルーツの盗品の可能性についてである。だが最初にお断りしておく。こちらは何の物的証拠も出せないのでまったく断定はできない。あくまで「可能性」の域を出ない。だが、何の根拠もなく疑っているわけでもない。下記に疑わしい理由を取り上げたい。

番組収録があった8月は桃の最盛期で、スーパーなどでは1玉あたり200-400円前後、百貨店や通販での高級品となれば1玉数千円になるものもある。桃は極めてデリケートなフルーツであり、桃から出るエチレンガスが多く柔らかく熟すのが早い。販売する側、栽培する側も取り扱う上では大変気を使う果物なのだ。

だが移動販売車で売られていたのは7玉300円、1玉約43円という異常とも言える低価格である。筆者の経営する会社でも桃の取り扱いをしている。農家や市場から仕入れをしているので分かるのだが、販売して利益を出すことは考えるとこの価格はあまりに現実的ではない。さらに移動販売車は軽トラの準備やガソリン代、販売者の人件費などもかかってくる。販売者に仕入れルートを確認すると、仕入れて小売販売をしているということだったので仕入れ価格はさらに安いということになる。これで持続可能な商売が成り立つのだろうか?

考えられる可能性として、異常に安い価格はあくまで客寄せで、しっかり利益が出る他の商品の販売に繋げて利益を出すという仮説である。たとえば安い桃で客寄せをして、ぶどうやメロンなどで利益を出すというイメージである。だが、数件移動販売車に突撃したがそのような販売形態は見られなかった。

また、こちらはあまり考えたくはない仮説だが、盗品で原価がゼロなので何円でも売ってしまえるというものである。フルーツの大量窃盗が社会問題になっている昨今、どうしてもこちらの可能性が隠顕してしまう。だが証拠はないので断定はできない。フルーツは工業製品と違って簡単にトラッキングができないためだ。

気をつけたいのは農家の人の中にはきちんと許可を取得した上で、まっとうな品質の販売をしているケースもあるという点だ。自分が知るケースでは昔から許可を得て販売していたのに、無許可販売で盗品の疑いが広がったことによって「盗品なんでしょう?」と言われて困っているという話である。都内の移動販売車のすべてが盗品を売っているわけではない点にはくれぐれも気をつけたい。

販売者の不審な点

移動販売車複数に突撃してわかったことは、フルーツについて何も知識がない者が販売しているという事実である。販売者の不審な点が複数確認された。

桃やぶどうの品種や生産地、保存方法など通常生産者やフルーツに詳しい人間なら絶対に答えられないわけがない基本的な質問にも答えに窮する。いや、アルバイトなどの売り子だとしても、当然購入者から受けるであろう質問なので想定される質問への答えを準備して然るべきだろう。何を聞いても分からない、知らない、または回答を出す場合もウソやデタラメが返ってくる。「この桃は福島県産のあかつきか?」と聞いたら「そうだ」と即答するも、箱には山梨県産と書いてある上、ひと目見てあかつきではなかった。

また、管理方法もずさんである。フルーツの箱が積み上げられているが、これはフェイクでただ形式的に積み上げているのだとすぐに分かった。桃の大きさと箱のサイズが不釣り合いな点がおかしい。圧力が加わると痛みやすい桃について理解をしているものなら、箱の中で転がったり積み重ねて圧力がかかってしまうリスクのあるずさんな管理をするとは考えにくいからだ。

そして試食を提供されるも、試食で出された桃と販売される桃はまったくの別物だった。試食用の桃はジューシーで果汁したたるおいしい桃で、見た目にも美しくもしかしたらスーパーなどで調達したものかもしれない。だが、販売されて渡された桃は核割れを起こしており、カットすると中で種の周りの腐敗が始まっている様子が確認できた。農家が核割れを起こした桃を販売するだろうか?

さらに販売車に貼り付けられたフルーツの紹介画像もおかしい。桃やぶどうの紹介がなされているが、他社のホームページからそのまま印刷してきたものを貼っている(画像の中に他社名が印字されている)。品種も見た目も全く異なる。加えて、車に貼られた注意書きが「中国語の漢字」が使われていて、写真の販売者は日本人ではなかった(アジア圏の強い訛りの日本語)。

筆者撮影

移動販売車の多くは大久保や赤坂で外国人が往来する場所を選んで無許可で販売されており(無許可販売であることは確認済)、買っていくのは日本人ではなく多くは外国人だ。欧米系だけでなく、中国、韓国、東南アジアからの訪日客と思しき人達が次々に移動販売車に吸い込まれていき、中には販売員にチップを支払ってお礼を伝える人もいた。

メディアで無許可移動販売について情報を出しても、訪日外国人はそのことについて知る由もない。移動販売車によっては、訪日外国人をターゲットに積極販売しているように思えた。

移動販売車で売りさばくワケ

2020年11月にたけしのTVタックルという番組に出演した際は、盗品のフルーツをフリマアプリで販売している可能性があるのでは?ということを解説した。過去記事「令和の闇市!? 窃盗フルーツ販売のフリマアプリに規制を」ではそのことについて書いた。これはあくまで仮説に過ぎないが、もしも盗んだフルーツを販売する側に立って考えるなら「移動販売車」という非効率に思える手段を選択する力学はどこにあるのか?それはトラッキングの難しさにあるのではないだろうか?

フリマアプリで盗品が出品されているのは、フルーツに限った話でない。実際、店舗で盗まれたブランド品がフリマアプリに出品されているのを見つけて通報された事件も報告されている。だが、フリマアプリは多くの証拠を残すことになる。入金口座、登録者・発送住所、そして極めつけはIPアドレスである。盗品の写真を出せばその写真も動かぬ証拠である。

インターネットの取引はダークウェブやノーログVPNなどを駆使するなどをしなければ、リアルでの商取引より遥かに多くの足跡が残るものなのだ(そして上記の匿名性を高める活動すらも完全ではない)。

しかし、移動販売車ならどうだろうか? 追跡してわかったことは、滞在時間は極めて短いということである。1時間前後で次々と場所を変えてしまう。目撃情報を得て急行してももはや間に合わないということは何度もあった。販売者も入れ替わる。これでは痕跡は残らない。フルーツを購入した際にレシートか領収書を頼んだが、拒否された。事業者の届けをした上で納税はされているのだろうか?

以上のことからフルーツの駅前移動販売車には数々の不審な点が確認された。すべては仮説の域を出ず、証拠もない。だが論理的に合点がいかない点を積み重ねていくと、どれだけ目を背けようとも解は自ずと導き出されるだろう。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。