第二幕に入る送金、決済ビジネスの行方:メガバンクのステーブルコインの成否

フィンテックという言葉がようやくなじみ始めたという方もいらっしゃるのではないでしょうか?ファイナンスとテクノロジーを掛け合わせた造語ですが、日本の造語ではなく、海外でもちゃんと通じます。Financial Technologyという言葉をFintechとしたのが語源です。

結局、フィンテックとは何だったのか、といえば個人的に思い当たるのは途上国などで銀行口座が持ていない人が送金する手段を持ち合わせていない中、いかに簡単に送金できるか、という代替手段でした。途上国の人の送金手段とは他国に出稼ぎに出ている家族が自国の家族に生活費を送金することも含まれます。フィリピンやメキシコの出稼ぎの人がスマホの格安送金をしていたのが話題になったのもずいぶん前の話です。

途上国の人たちがスマホを持っているのは経済のバランスからおかしいと思ったのですが、生活の糧でもあったわけです。

次いでビットコインが生まれましたが、最大の特徴はブロックチェーンと称するお金の流れのヒストリーが全部わかることです。我々が使う紙幣は過去、誰がどう使ったか全くわかりません。銀行から引き出す、お釣りでもらうなどお金の履歴は直前だけしかわからず、その前は一切不明です。それが明白になると資金洗浄のような取引には不利となります。

但し、いくら仮想通貨とは言えども今や2万種もあるとされるコインが絡むと経路の判明を難しくすることも可能です。ちなみにビットコインはコインとの相性は悪く、イーサリアムが主体となります。

このような流れが生まれる中、アメリカの当局は必死に仮想通貨の普及を阻止しようとしていました。理由は基軸通貨ドルの尊厳が歪むからです。アメリカが膨大な借金ができるのは基軸通貨のおかげといってもよく、日本政府がせっせとアメリカ国債を購入するのは基軸通貨であることが最大の拠り所ともいえましょう。

現在ある世の中の通貨はほぼ政府保証のマネーです。つまり、国家がそのお金の価値を約束しているということ。ではアメリカがもしも経済や国家運営に詰まり、「お約束している国債の利払いや償還ができません」といえばアメリカ国債は暴落します。基軸通貨といえども結局健全なアメリカ経済が前提であり、極端な言い方をすれば地球はアメリカを中心に回る天動説であるともいえるのです。

ここで第三極的な仮想通貨が生まれようとしています。日銀はかつて仮想通貨を暗号資産だと命名しました。確かに今までは正しかったのですが、これからは仮想通貨に戻すべきでしょう。なぜなら通貨としての役割を持たせる方法が出来つつあるからです。

それがステーブルコインと称するものです。これは発行する仮想通貨の量に見合った政府通貨などを担保として持っていることが前提になります。今でも仮想通貨にステーブルコインと称するものはあるのですが、その担保が怪しかったこともあり、ステーブルではなくなったものも存在します。

今回、その発行を試みているのが日本のメガバンクで当初計画より大幅に遅れましたが、来年にも登場しそうな勢いです。主体は三菱UFJでみずほ、三井住友はそれに乗っかる感じでしょうか?今後、煮詰まれば3社でスタートし、徐々に他の銀行も交えた形になるのでしょう。

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今年の春、みずほはLINE銀行計画から撤退し、幻の案件となりました。双方いろいろ問題があったことも事実ですが、フィンテックの世界が目まぐるしく進化する中でみずほが銀行主導のステーブルコインに舵を切ったからではないか、とみるほうが正しい気がするのです。

確かに当時はQR決済が花形のように言われ、事業会社は必死のマーケティングを展開していました。まるでQR決済が今後の支払いのデファクトスタンダードになると言わんばかりでした。確かにQR決済は新しいし、スマホをピッとやれば払えるなんておしゃれです。ですが、いまや、クレカでもスマホピッで払えます。それにQRを出すのが面倒な場合もあるのです。更に店側は決済の費用が掛かるし、各社別の端末なのでレジの前は端末だらけで実に見苦しいわけです。

ここでメガバンクの打ち出すステーブルコインは通常の決済のみならず貿易決済に使えそうだという点が極めて重要なのです。現在、海外送金はSWIFTという決済システムを介して行われます。この前近代的な送金の仕組みは今、お金が何処にあるか分からず、事故も生じるし、決済コストが高いのです。ステーブルコインになればSWIFTがいらなくなる、これは画期的です。そして送金のコストも極めて安く、送金は瞬時に完了します。これは貿易決済の世界に於いて革命的と言ってよいでしょう。

個人的にはメガバンクが発行するステーブルコインは第二幕で、これも幕間つなぎだとみています。最終兵器は中央銀行が発行するデジタル通貨でこれが出来れば世の中の決済は激変します。まず、銀行ビジネスが激変します。駅前一等地に銀行は不要でどこかのビルの上の方に入っていればよいことになります。給与はスマホのアプリに直接入り、支払いもスマホでします。銀行がそこでは介在しません。よってメガバンクのビジネスはともかくリテールバンクは厳しい将来が待っていることになります。

現在のQR決済業界だこれから激変時代を迎えるわけで個人的には民間のQR決済は1-2社を除き無くなるとみています。結局、金融を扱うのは政府の意向を汲んだ大手が主流ということになるのでしょう。いつの話ですかね、と聞かれたら30年代初頭にはそうなっていると予想しています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年9月25日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。