40年前に逆戻りしたアルゼンチンの一人当たりの実質所得

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世界貧困ランキング6位のアルゼンチン

日本ではアルゼンチンと言えばタンゴを通して国の存在が認識されている程度でしかない。しかし、20世紀初頭の同国は世界トップの一角をなす経済大国。それが100年余り経過した今、世界貧困ランキングで6位に位置するという無様な様相を呈している。(5月21日付「インフォバエ」から引用)。

一国の趨勢でこうまで変化するのは異例であろう。その一番の要因は戦後からアルゼンチン経済を支配している高騰インフレだ。その理由は簡単。財政が赤字になれば、必要なだけ紙幣を増刷する。これがアルゼンチンで現在まで繰り返されているのである。

余談になるが、GDPでトップの一角日本も同じようなことをしている。国債を売り紙幣を刷って財政赤字を埋めている。その国債を買う人がいなくなればどうなるのか。ハイパーインフレが起きるか、国債の暴落となって、日本円も暴落するであろう。

日本の借金以上に国民資産があるといっても、その価値も当然急落するはず。危ない綱渡りをしているのが今の日本だ。少子化と長期の経済低迷が続く日本が将来アルゼンチンのようにならないとは絶対に言えない。しかも、それが100年後ではなく、もっと短い期間にそうなるであろう。

そしてアルゼンチンと似ているのは戦後から一党が殆どの期間政権を担って来ているということだ。アルゼンチンは正義党、日本は自民党。

また同紙25日付の見出しには「アルゼンチンの一人当たりのGDPが40年以上前のレベルまで降下した」と出ている。

1980年代のアルゼンチンはGDPで世界で占める割合は1.3%であったのが、現在は0.75%まで落ちている。GDPを支える企業が継続するインフレの影響を受けて企業の進展を阻んでいるのである。例えば、2008年から2016年の間に毎年6万5000社余りが誕生したが、同時に5万9000社が閉鎖している。高いインフレと投資などの資金支援が得られないのが閉鎖する企業が多い理由だ。

アルゼンチンは自然資源に恵まれ過ぎているのが不幸

アルゼンチンには85万6300社の企業が存在する。これはブラジルやチリと比較しても企業が少ない。アルゼンチンは10万人に対して1195社、ブラジルは2219社、チリは6696社という数字になっている。アンデス山脈を背にしてアルゼンチンとチリでこうも違いがあるのは異常でもある。

ここでも一つ余談を加えたい。両国の違いは学校教育から始まっているという。チリの学校では先生が生徒に「チリは豊かな国ではないので一生懸命勉強しましょう」と教える。一方のアルゼンチンは先生が生徒に「アルゼンチンは自然資源に恵まれた豊かな国なのです」と言うのだそうだ。

この話は筆者がもうかなり以前になるが、スペイン紙「エル・パイス」で読んだ記事に記載されてあった。この記事を読んだ時に両国の経済発展の差は学校教育の段階から違いがあると指摘していた。今の日本の教育はアルゼンチンのそれに近いような気が筆者にはする。

似たようなことは隣国ウルグアイの「世界一貧しい大統領」と呼ばれていたムヒカ元大統領が「アルゼンチンの不幸は自然資源に恵まれ過ぎていることだ」と当時のマクリ大統領に指摘したことがある。アルゼンチンには鉱物資源や食糧資源などなんでも豊富にあるということ。それがアルゼンチンの不幸に繋がっているということなのである。過保護が成長しないのと同じようなことだ。

公務員の方が民間企業で働く人よりも多い

アルゼンチン企業の83%は零細企業。16.8%が中堅企業、大企業は僅か0.2%を占めているだけだ。零細企業は経済危機には弱い。しかも、アルゼンチンの問題は国営企業や公的企業に勤務する公務員が多すぎるということ。民間企業に勤める従業員が増えない。2012年の民間企業での従業員は607万2000人であったのが、10年後も606万6000人と横ばいで民間企業に伸展がないということなのである。(2022年6月26日付「チェケアド」から引用)。

その中で零細企業に勤務するひとは430万人。

それもそうであろう。何しろ、高いインフレと高金利では特に零細企業が進展する余地がない。アルゼンチン23州の内の13州では公務員の方が民間企業で働く人よりも多いという事態になっている。正に、社会主義国のようなものだ。しかも労働組合が50以上ある。物価が上がれば賃金の昇給を組合は要求する。それが受け入れられない場合はストをすることになっている。また、労働組合に所属していない労働者もいる。彼らは組合の賃金の昇給とは関係なく低い収入で生活している。

更に、大企業と中小企業の間で下請けとか言った関連企業のような繋がりがないということ。

しかも、輸出に取り組む企業が少ないというのも問題としてある。2006年から毎年平均して600社が輸出することがなくなっている。2016年だと輸出していた企業は9600社しかなかった。その内の90%近くが中堅企業の輸出である。(2017年2月19日付「ラ・ナシオン」から引用)。

だから、アルゼンチンは常に外貨が不足している。その一方で自国の通貨ペソは全く信頼性がないから誰もが米ドルを持とうとする。ところが、ドルは常に不足しているから高騰する。それがまたインフレを煽る現象となっている。