先日Twitterで、絶滅したタスマニアタイガーの復活に関する記事を見つけました。
偶然、最近仕事でタスマニアのホバートへ出張したときに、土曜朝市の犬用の服のお店でタスマニアタイガーの模様の入ったジャケットが売られているのをみました。このジャケットを着ると、飼い犬がタスマニアタイガーに変身できるという面白いものです。
ということで、今回の書評は、『ドードーをめぐる堂々めぐり』の著者・川端裕人が贈る、スリリングで感動的な「絶滅動物小説」、川端裕人「ドードー鳥と孤独鳥」を紹介します。
僕はオーストラリアに移住した24年前から、オーストラリアに関連する日本語で書かれた書籍の蒐集を趣味にしています。
著者の川端裕人(かわばたひろと)さんは、2004年に出版された「はじまりの歌をさがす旅」で知っていましたが、いままでそれ以外の著作を読んだことがありませんでした。
そんな中、バッタの研究でポスドク時代を「バッタを倒しにアフリカへ」遠征して七転八倒する姿に抱腹絶倒する体験談のベストセラー本、前野 ウルド 浩太郎 (著)「バッタを倒しにアフリカへ」を読んで、その中で川端裕人さんが前野さんの取材にアフリカのモーリタニア(モーリシャスではない)まで来られた話を見つけました。アフリカの細かい砂で川端さんの高級なカメラがダメになったエピソードなども、アフリカの過酷な自然条件が臨場感あふれて描かれていました。
ということで、ふとしたきっかけで見つけた川端裕人「ドードー鳥と孤独鳥」。
以下のAmazonでの紹介文をみて、反射的にキンドル本をポチって読んでみました。
『ドードーをめぐる堂々めぐり』著者川端裕人が贈る、スリリングで感動的な「絶滅動物小説」!
科学記者の「タマキ」は、ゲノム研究者になった幼馴染「ケイナ」と二十年ぶりに再会した。ステラーカイギュウ、リョコウバト、オオウミガラス、そして、ドードー鳥と孤独鳥……自然豊かな房総半島南部の町で過ごした小学生の頃から、絶滅動物を偏愛してきたふたり。
この紹介文にある自然豊かな房総半島南部の町で、主人公が教授の父親と二人で住んでいた百々谷(どどだに)は、河川へ水が集まる小さな「流域」を彷彿とさせました。そこは一つの生態系が流域内で完結していて、今年の春に訪れた三浦半島の小網代の森にそっくりです。
僕の小網代の森訪問は、YouTube動画を作って、アゴラでも動画記事を紹介していただいているので、そちらをご参照ください。
さらに、小網代の森の詳細は、岸由二 (著), 柳瀬博一 (著)「「奇跡の自然」の守りかた ──三浦半島・小網代の谷から」に詳しく描かれていますが、気候変動での「適応」で重要なコンセプトとなる「流域思考」を理解する上で重要な場所なのです。物語の中でも豪雨で土石流が発生する場面は、自然災害から生き残るための「流域思考」を理解することがいかに大切かを臨場感あふれて読むことができます。
成長して科学部門の新聞記者になった主人公タマキは、カリフォルニアで最先端のゲノム研究「脱絶滅」に取り組むケイナと劇的な再会を果たして、江戸時代に日本の長崎に来ていたという「ドードー鳥」の謎と行方を追う旅へと乗り出します。タマキ=ドードー鳥、ケイナ=孤独鳥という絶滅した鳥と主人公たちの性格が重ね合わされて、物語は展開していきます。
そして、ジェラシック・ワールドのような、ゲノム解析での絶滅種の復活の倫理的問題や、研究者たちの論文出版事情の詳細も物語の中で織り交ぜられていて、研究者の僕としては、堪らない面白さで、読み終えるのがもったいなく感じる本でした。
読後、無意識のうちにキンドルをポチって、物語ではなくルポでドードー鳥に関する本、川端裕人(著)「ドードーをめぐる堂々めぐり 正保四年に消えた絶滅鳥を追って」を読み始めている自分がいます。
最後に。「脱絶滅」と「脱炭素」に対する人々の反応(?)は似ているような気がするのです。「生き物の絶滅」と「二酸化炭素増加による地球温暖化」は人類のせいか?自然のせいか?人類が「脱絶滅」や「脱炭素」をさせて良いのか?そもそも可能なのか?成り行きに任せるのが人類の運命なのか?など、現在起きている地球環境問題と科学技術の発展に関して色々と考えさせられました。
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豪州クイーンズランド大学・機械鉱山工学部内の日本スペリア電子材料製造研究センター(NS CMEM)で教授・センター長を務めているノギタ教授のYouTubeチャンネル「ノギタ教授」。チャンネル登録よろしくお願いいたします。