「台湾有事」(台湾武力併合)の危険性
かねてより「中華民族の偉大な復興」を掲げる習近平中国共産党政権にとって、台湾は核心的利益であり、台湾併合は残された唯一の悲願であろう。
この大方針は、中国共産党の指導の下に驚異的な経済発展を成し遂げた14億人の中国国民にとっても望むところと考えられる。だからこそ、習近平国家主席は「台湾平和統一」が困難となれば、「台湾有事」すなわち「台湾武力併合」の可能性を否定しないのである。
共産主義の中国と自由民主主義の台湾は、政治体制が水と油であり根本的に異なるから、対話による「平和的統一」は不可能または著しく困難であろう。このことは南北朝鮮を見ても明らかである。のみならず、台湾住民の世論調査を見ても、現状維持を望む層が圧倒的多数であり中国との統一を望む意見は極めて少数である。
そうだとすれば、なおさら、中国が台湾併合を断念しない限り、残された道は「台湾武力併合」しかない。それは日米同盟の対中抑止力・対処力が低下した時が極めて危険である。
毛沢東時代の台湾武力攻撃
ひたすら力を信奉する中国は、毛沢東時代の1958年に台湾武力併合を目指し台湾に対して武力攻撃を行っている。中国人民解放軍は台湾領の金門島に対し47万発の砲撃を行った。断続的な砲撃は1979年まで続いた。しかし、台湾軍の反撃と米軍の支援により、中国による台湾武力併合の試みは失敗している。
その後の中国の経済発展と、それに伴う核戦力を含む軍事力拡大を考えれば、現在では核戦力を含め台湾単独で台湾を防衛することは極めて困難であり、米軍の支援協力が不可欠である。
「台湾有事」を抑止する在日米軍基地
仮に台湾有事になった場合は、地理的に台湾に近い沖縄の嘉手納、普天間、岩国米空軍基地、さらに原子力空母を擁する横須賀米第7艦隊、佐世保米海軍基地など、在日米軍基地の役割が決定的に重要になる。
なぜなら、天然の要害である幅130キロの台湾海峡を渡り上陸を目指す中国艦船に対しては、台湾軍による地対艦・空対艦ミサイル攻撃のほかに、圧倒的な米艦船による艦対艦ミサイル攻撃・米F15戦闘機による空対艦ミサイル攻撃、米原潜による魚雷・ミサイル攻撃などは極めて有効だからである。すなわち、「台湾有事」を抑止するのは在日米軍基地の打撃力なのである。
危険な「在日米軍出撃反対論」
ところが、一部の左翼系学者や評論家は、台湾有事に際し、日本が集団的自衛権を行使しないことを宣言すれば、米国は中国との戦争に踏み切れない(「前衛」2023年9月号渡辺治一橋大学名誉教授論文)とか、日本は米国との事前協議において、在日米軍基地からの台湾への出撃を留保すべきだ(柳沢協二元内閣官房副長官補他「政策提言:戦争を回避せよ」2022年11月)などと主張している。いわゆる「巻き込まれ反対論」である。
しかし、このような主張は、日米同盟を分裂破綻させる危険性があり、中国に誤ったメッセージを与えかねず、日米同盟の対中抑止力・対処力を低下させ、かえって中国による台湾武力侵攻を誘発する危険性が極めて大きい。なぜなら、近年軍事力を増強した中国に対しては、米軍の支援がなければ、台湾独自で台湾を防衛することが前記のとおり極めて困難であることを中国は知悉しているからである。
中国による台湾武力併合は、台湾の最先端半導体技術産業やIT産業をはじめ、2000万人を超える台湾住民を中国共産党政権の支配下に置き、台湾を大規模な軍事基地化し、中国が核心的利益と主張する尖閣諸島や沖縄本島への中国の領土的野心を増長させ、日本にとって深刻な脅威をもたらす危険性が極めて大きいと言わねばならないのである。