会長・政治評論家 屋山 太郎
岸田首相は総選挙前の内閣支持率を上げておこうと、内閣・党改革人事に加えて様々な政策を打ち出した。しかし、今、肝心なことは憲法の改正と将来の重装備に相応しい国防予算を作ってみせることだ。国民はもう安物品を詰めたテントを貰っても嬉しくない。鉄筋で組み立てた土台だけでも十分なのだ。
今回の新内閣は一体となっても重大事をやってくれるという気がしない。適当に政策をやって内閣を維持するかもしれないが、それでは国家は一段と危うくなるだけだ。
最高に重大な問題は憲法だが、現選挙体制では改正は実現できまい。選挙制度を中選挙区制度から小選挙区制度に変えた時、この体制ならできるだろうと予測した。ヨーロッパ諸国はほぼ全て日本の選挙制度と同じだ。
ソ連が崩れる前、各国の共産党は共同で①独裁制と②民主集中制を廃止した。その理由は党首の独裁制では「政権はとれない」との認識に変わったからだ。それまでは「相手方に独裁されたら反撃できなくなる」との理由で、自らも独裁権を維持する考え方だった。それが独裁権を離してユーロコミュニズムの考え方に変化した。
ヨーロッパでは各国は何十回も選挙をやったが、選挙後に連立を組んで政権を作る。この組み合わせが、選挙のたびに変わるから、選挙ともなれば、主義・主張は各人の言いたい放題である。
ところが日本はどうか。自民党は立党の精神が憲法改正だから、「改正」を言うべきだ。しかし、連立の公明党が「加憲」という怪しげな主張をするので、自民党は具体的な改憲策を提示できない。本心は改憲したくない者が多い。公明党にかこつけて、主張を表立って言わない手合いもいる。
これが憲法改正が70年間もサボられた理由だが、どこが間違いか。選挙前に政党が連立していること自体が間違いだ。選挙が明けて、共通の主張を掲げていた党と党が連立するのが公平だ。
それにも拘わらず、日本では立候補時点で連立論議をするから、党の主張が不分明になる。自民党は選挙に当たって、公明党に配慮しないこと。また、立憲民主党は共産党に配慮しないこと。せっかく選挙制度が世界の常識と同じになったのに、間違って適用しているために、役立っていない。
岸田内閣は閣僚が金を使い過ぎたとか、誤魔化したというつまらないことだけに、ウロウロしている。
中選挙区を小選挙区に替えたのは、中選挙区では金がかかり過ぎたからだ。金がかかり過ぎるから公の部分をつまみ食いする。或いは、族議員となって業界から金を持ってくる手合いが目につき過ぎる。昔、2年毎に車検を科して10万円に近い料金を取っていた時代、部品の寿命が2年と短いからというのが理由だった。ところが同時期にヨーロッパで5年保障の日本車を売り出して、「寿命が2年」のウソがばれた。族議員というのはこの類で金を集めているのではないか。
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屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2023年10月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。