松川るい議員研修「大使館が家族の面倒を見た」証言はデマだ

Firn/iStock

自民党女性局のフランス研修が8月から炎上し、松川るい自民党女性局長(当時)や今井絵理子議員らは延々と非難され続けた。その端緒となったのはSNS上で発信された“観光旅行”と見紛う写真であった。確かに、情報発信の仕方については、各種の批判の中に耳を傾けるべき妥当な指摘も多く、改めて公人がなすべき情報発信の手法と内容を検証する良い機会であった。

ただし、一部に事実と異なる情報がSNSばかりでなくメディアにも流れ、それに基づき2次・3次とフェイク情報が拡大再生産されるうちに、あたかも“事実”であるかのように定着してしまった。これはメディアリンチが過熱する際に起こる現象である。

例えば昨年8月の旧統一教会騒動の際には萩生田政調会長に関する誤報が流れ、当該情報(記事)の削除という対応がなされた。詳しくは拙記事『大誤報!萩生田氏記事「…証言 元女性信者が赤裸々に!」はデマ』(アゴラ2022年9月7日)をご参照頂きたい。

大誤報!萩生田氏記事「…証言 元女性信者が赤裸々に!」はデマ
旧統一教会関連報道のある記事について、明確に誤報(デマ)であることが判明しました。8月29日に報じられた以下の記事は事実と異なることを配信社が認め、削除の上、謝罪しました。 今回誤報と判明した記事 今回、誤報と判明したのは、8月...

メディアキャンペーンが盛り上がり、公人らに向けて囂々たる非難が巻き起こるとき、一部の報道に擬態したエンタメ・メディアが明確な嘘を注ぎ込む。特に反撃してこない政府・与党の人物が対象ならば一層苛烈になる。

またそれが“関係者の証言”という信憑性のない“根拠”に基づいていることも定型的である。今回のフランス研修バッシングの際にもそれは起きていた。

「大使館に子供を預けた(外務省関係者証言)」という報道

エンターテインメント雑誌「FLASH」は8月2日、同社のウェブサイトで「外務省関係者」の証言として次のような“スクープ情報”を発信した。

  • 松川議員の “公務中” は、次女をホテルに一人で残すわけにもいかないので、日本大使館に預けられていました。
  • (松川議員のご主人の)新居雄輔さんは国際情報統括官という局長級の手前にいる幹部です。今回の研修では、日本大使館が世話をするように、指示が出ています。
  • 30人以上の世話は大使館にとっておおごとですし、『そのうえ子供の世話までさせるのか』と不満は出た。

(以上、同一外務省関係者と思われる人物の話として)

これらを受けて、SmartFLASH編集部も、

いち議員の子供の世話までしたという大使館

と記述している。

本誌は、まだ松川議員が語っていない研修の実態をキャッチした。じつは、松川議員は次女をフランスに同行させていたというのだ。「研修に参加した今井絵理子議員のSNSにも次女は写っていて、その写真も現在は削除されています。松川議員の “公務中” は、次女をホテルに一人で残すわけにもいかないので、日本大使館に預けられていました」(外務省関係者)

本誌は、別の家族写真で、今井議員が投稿した写真の少女が、松川議員の次女であることを確認している。さらに、このフランス研修では、まだ登場していない彼女の家族の存在がある。前出・外務省関係者が、松川議員の “家族旅行” の裏側をこう明かす。

「松川議員も外務省出身ですが、ご主人の新居雄輔さんは国際情報統括官という局長級の手前にいる幹部です。今回の研修では、日本大使館が世話をするように、指示が出ています。  

30人以上の世話は大使館にとっておおごとですし、『そのうえ子供の世話までさせるのか』と不満は出たようですが、議員と幹部の家族ですから、仕方ないとなったようです」

外務省幹部の手前、いち議員の子供の世話までしたという大使館

(光文社「SmartFLASH」8月2日より引用、太字は引用者)

松川るい議員、フランス外遊に娘を同行させていた!「大使館が子どもの世話」外務省関係者が明かす “家族旅行” の内幕

Yahoo!ニュース
Yahoo!ニュースは、新聞・通信社が配信するニュースのほか、映像、雑誌や個人の書き手が執筆する記事など多種多様なニュースを掲載しています。

果たしてこれは事実なのだろうか。10月2日、松川るい議員の公式ブログで答え合わせができた。

「女性局海外研修について」(松川るい議員公式ブログ)

自身が家族を帯同した件の主旨と事実について松川議員は、10月2日に自身のブログ記事で次のように説明した。

  • 子育て中の女性でも参加できるよう「新たな試み」として、党として、子連れ参加可能とした。
  • 大使館に子どもの監護の依頼はしていない。
  • 大使館や大使館員から支援も受けていない。
  • 子供に係る経費は自己負担。

今回の研修は、海外の事例なども参考に、子育て中の女性でも参加できるように、「新たな試み」として、党として、子連れ参加可能とし、全国の対象女性局にご案内したものです。(略)なお、大使館に子どもの監護の依頼はしておらず、大使館や大使館員から支援も受けていません。子供に係る経費は自己負担です。

(松川議員ブログ記事「女性局海外研修について」より引用、太字は引用者)

結論、「大使館に子供を預けた」は誤報

先ほど列挙した、SmartFLASH編集部の下記3点の記述は、松川議員自身が表明した事実関係に照らすならば明確に事実に反している。

  • 松川議員の “公務中” は、次女をホテルに一人で残すわけにもいかないので、日本大使館に預けられていました。
  • (松川議員のご主人の)新居雄輔さんは国際情報統括官という局長級の手前にいる幹部です。今回の研修では、日本大使館が世話をするように、指示が出ています。
  • 30人以上の世話は大使館にとっておおごとですし、「そのうえ子供の世話までさせるのか」と不満は出た

これでもまだ同編集部がこれを「事実である、または事実と信じるに足る証言がある」というならば、それを証明する義務は同編集部側にある。

事実誤認に基づき再生産された誤報と中傷

月刊誌「WILL10月号」には複数の執筆者による酷評(侮辱)記事が掲載されている。酷い記事の羅列に筆者は読む気もしないが、事実に基づき、不当に誰かを傷つけることがないならば、言論の自由の範囲内である。

しかし上記誤報に基づくと推定される人格攻撃記事については看過できない。それは中傷に該当するからである。当該部分を同誌より抜粋すると以下の通りである。

自身の子供を大使館に預けさせる。庶民にも発想もできない所業である。私も大阪府民の一人だ。こやつに一票を投じた。(略)庶民を愚弄するのか。

『学はあってもバカはバカ』岩田温氏

(家族帯同について)こればかりはどんな弁解も通らないし、費用が自腹であったとしても許されることではない。研修の際に彼女を日本大使館に預かってもらっていたという驚くべき事実も、外務省関係者のリークによって明らかになった。

『松川るい・三浦瑠麗 折れた高慢のハナ 二人とも「失言炎上」常習者』竹内久美子氏

“飯山:娘を在フランス日本大使館に預けているんです。

谷本:大使館を託児所として使うのはマズい。

飯山:どんな立場なら、大使館に“子守”をさせる特権があるのか。

『松川るい・三浦瑠麗 折れた高慢のハナ 上から目線のセレブ気どり』谷本真由美氏 飯山陽氏対談

自身による事実確認を怠り、信憑性の低い記事に基づいて情報発信するならば、相応の責任を問われる。例えば毎日新聞の誤解招く悪質な記事に基づいて原英史氏を誹謗中傷する情報発信をした複数の議員は、裁判でその名誉毀損を認定され「新聞の記事だからといって安易に信用してはならない(要旨)」とたしなめられている。

以下は筆者の「WILL10月号記事」に対する論評である。

事実誤認に基づいて「こやつ」と呼び「庶民を愚弄するのか」と情緒的な言動を表明したことは言論人や学者としての情報取り扱いの技術的な問題であり品位に欠ける言動である。良識を有する知識人ならば、自らの手で事実であることを証明するか、あるいは訂正謝罪するところだろう。

また、「子育て中の議員が研修先に子どもを帯同させること」について「如何なる弁解も通らないし許されない」という主張は一つの見解であり、言論の自由の範囲内である。しかし少子化という静かに進行する危機を乗り越えるべく「女性活躍」(「女性議員の増加」を含む)・「子育て世帯の応援」に国として取り組む最中である。この厳格な職業倫理の要求こそが、女性活躍を妨げている因習ではないか。もう一段大きな視点から議論されるべきテーマである。

3つの記事に共通して思うことは、安易かつ過度に人物を非難していることである。その言動は逆に、主張している本人に跳ね返ってくるのではないか。

むすび:仮に誤報は訂正されたとしても

公人のSNSの活用方法に関する最適解は見えておらず、未だ発展途上の問題である。その点今回の騒動は、汲み取るべき教訓を豊富に提示してくれた。特に関係議員諸氏にとっては学ぶものがあったと推測している。

誤報を配信した媒体、特にSmartFLASH編集部には、誤報を訂正するか、誤報ではないという証明をする義務がある。また月刊誌「WILL10月号」に限らず、上記誤報に基づく記事等は、独自の裏取りで検証するか、誤りを認めて訂正するべき道義的責任がある。またそのことは、自らが配信する情報の品質保証の観点からも必須であり、自らの為である。

しかし、誤報が訂正されたとしても、この間一般国民に発信された大量のネガティブ情報はもう拭うことができない。これは有望な人材を、メディアや言論人が気まぐれに潰し続けるわが国の悪習である。

議員のためだけでなく今後の世の中のためにも、誤報の訂正を議員自身もメディアに申し入れ、拒否されるようならば法的措置をとることを勧める。

今回のメディアリンチも、スタートはSNS上で発信された呟きであった。今や一個人の発信情報が条件次第で大きな奔流に発展して行く時代である。自戒を込めて、情報確認と発信には事実確認を心がけたい。とりわけ、公人と雖も一個人に関する情報であればその重要性は尚更である。