資産10億円になると変わる「お金のステージ」

ミクロ経済学には「限界効用低減の法則」という有名な法則があります。

これは財やサービスの量が増えれば増えるほど、追加的な1単位の増加に伴う効用(満足度)が減っていくという法則です。

わかりやすい例だと、1杯めのビールは美味しいのに、3杯め、4杯めとなると、段々とあまり美味しいと感じなくなってしまう。

ビールに限らず、同じものが同じように得られても、段々とそのありがたみが薄れていくということです。

これは、お金についても全く同じです。

例えば、資産ゼロの人が1,000万円まで増えるのと、1億円の資産が1億1,000万円に増えるのでは、前者の方が圧倒的に喜びが大きくなります。これは、感覚的に誰でも納得できると思います。

資産が増えれば増えるほど、1円増えることに対するありがたみが減少していく。そして、いつしかその効用が極めてゼロに近くなります。

では、お金の限界効用がほぼゼロになるのは、果たしてどのくらいの資産額なのでしょうか?

恐らく資産10億円くらいになれば、ほとんどの人は追加で資産が増えても、限界効用がゼロに近づき、あまり満足感を感じなくなると思います。

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もちろんこの金額には個人差があります。

もし、自分がどこまで資産を持てば、そこから先は大して満足しないかという「限界効用ゼロポイント」を知ることができれば、そこからは資産を増やす必要はなくなります。資産を増やすために、無駄な努力をしたり、リスクを取る必要がなくなるのです。

そうなると、きっと資産を増やすことよりも、むしろ資産を有効に使うことの方に高い満足感を感じるようになります。

つまり資産10億円で「お金のステージ」が変わるのです。

世の中には、お金の限界効用が自分よりはるかに高い人が存在します。言い換えれば、自分よりも1円の価値が有益に感じて、ありがたいと思える人です。

そんな人たちに自分の資産を有効活用してもらう。そうすれば、相手が喜ぶだけではなく、自分の効用(満足度)も上がります。

だから、限界効用がほとんど無いのに、自分のお金を増やすことばかり考え、無駄なお金を持ったまま満足しないで人生を終える。そんな後悔するような事だけはしてはいけません。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2023年10月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。