きのうは日本保守党の街頭演説をからかったら、すごい量のクソリプが来ました。このエネルギーは大したものですが、「減税日本」の河村名古屋市長が共同代表になったおかげで、保守党の重点政策のメインは「消費税減税」になり、コンセプトが混乱してきました。
党員のほとんどは税制もよく知らないようなので、アゴラこども版の特別編として、初歩的なおさらいをしておきましょう。
Q. 消費税は何に使われるんですか?
消費税法の第1条2項には「年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする」と書かれており、すべて社会保障に使うことになっています。だから消費税がなくなると、社会保障に使われる公費に4割ぐらい穴があくので、社会保険料を上げるしかありません。
Q. どうして社会保障特別会計に消費税が使われるんですか?
それは図1のように社会保障給付が134.3兆円もあるのに、社会保険料が77.5兆円しかなく、社会保障特別会計が56.8兆円の赤字だからです。これを一般会計の社会保障関係費で埋め、その財源の一部に消費税が使われています。
Q. 消費税を減税するとどうなるんですか?
今の消費税率は10%、税収は23.4兆円ですから、これを5%に下げると11.7兆円になり、財政赤字が増えます。図1のように消費税は社会保障特別会計の赤字を埋める社会保障関係費の財源ですから、それに11兆円以上の穴があくことになります。
Q. 消費税を減税したら社会保険料を上げるんですか?
今は社会保障の赤字を国債で埋めていますが、長期金利が上がってきたので、あまり発行できません。国債が増えると金利(国債費)が上がって財政が悪化するので、社会保険料を上げるしかありません。
社会保険料は今でも給与所得の約30%で、消費税よりはるかに重い負担です。普通のサラリーマンの給与明細には事業主負担を除いた額しか表示されていないので気がつきませんが、図2の大和財託のように事業主負担を表示すると、その大きさがよくわかるでしょう。この人の場合、会社は人件費として56.4万円払ったのに、本人は手取りで35.1万円しかもらっていません。
Q. 「消費税は社会保障の財源ではない」という人がいますが?
消費税は一般会計の財源です。お金に色はついていないので、何に使ってもかまいません。特別会計は独立採算なので、税収が余ると使い道に困りますが、図1を見ればわかるように、消費税収が社会保障関係費を上回ることはありえないので、その用途は何でもいいのです。
Q. 「消費税を社会保障目的税にするのはおかしい」という人もいます。
消費税法には「目的は社会保障給付」と書いてありますが、実際には使い道は制限されていません。目的税というのはフィクションで、本当は好ましくないのですが、消費税額が社会保障関係費を下回る限り問題ありません。EU(欧州連合)でもVAT(付加価値税)を社会保障目的税としていませんが、そのほとんどは社会保障に使われています。
Q. 消費税が「逆進的」だというのはどういう意味ですか?
貧乏な人は所得のほとんどを消費しますが、お金持ちは所得に対して消費が少ないので、貧乏な人ほど重くなります。たとえば年収100万円の人が90万円消費すると、消費税を9万円はらうので、所得に対する負担率は9%ですが、年収1000万円の人が500万円消費すると消費税は50万円なので、負担率は5%です。このように所得が増えると負担が軽くなることを逆進的といいます。
Q. 逆進的な消費税は不公平ですね?
税務署が所得を100%捕捉していれば消費税は不公平ですが、実際には6割以上の法人が赤字(所得はマイナス)ということになっています。
中小企業の経営者や自営業者は所得をごまかしている人が多いので、所得の捕捉率はクロヨン(サラリーマン9割・自営業6割・農業4割)といわれています。給料から100%天引きされるサラリーマンにとっては、所得税こそ不公平な税金です。
Q. 社会保険料は税金なんですか?
日本の社会保険料は賦課方式です。これはわかりにくい言葉ですが、英語では現金払い(pay-as-you-go)といい、今年給付する年金や医療費などを今年集めた社会保険料でまかなう方式なので税金と同じです。
でも厚労省が保険という建前を変えないので、大きな不公平が出ています。国民年金保険料は、年収100万円でも1億円でも年額19.8万円という逆進的な人頭税です。社会保険料は負担額の上限があるので所得の高い人は軽くなり、図3のように年収に対して非常に逆進的なのです。
Q. 消費税率を上げたら消費税収が減るというのは本当ですか?
うそです。図2のように1997年に消費税率を3%から5%に上げたときも、2014年に5%から8%に上げたときも、2019年に8%から10%に上げたときも、消費税収は増えました。所得税や法人税の税収が減ったのは景気が悪くなったからで、図4でもわかるように、ほとんど消費増税と関係ありません。
Q. 消費税は法人税を下げるためにできたんですか?
日本で消費税ができたのは1989年で、それまでに何度も大型間接税をつくろうとして挫折したあとでした。大蔵省は、不公平で税金を集めるコストのかかる所得税から、とりはぐれのない消費税に変えようとしたのです。
また法人税率は世界的に40%台から20%台に下がり、日本も下げないと企業が法人税の安い国に逃げていくので、下げたのは当然です。法人税のほとんどは、雇用喪失という形で労働者が負担するのです。
Q. なぜ消費税はこんなにきらわれるんですか?
毎日お店で払うので、だれでも負担しているとわかる一方、それが社会保険料という「隠れた税」の赤字を埋めていることがわからないためでしょう。消費税が不公平だとか逆進的だとかいう話も、所得税や法人税が穴だらけで、社会保険料が老人福祉の負担を若者に押しつける不公平な税だと知らない人が、政治家に踊らされているだけだと思います。
政治家が消費税の話ばかりするのは、社会保険料にふれると社会保障の膨大な赤字をどうするのか、特に老人医療費をどう削減するのかというタブーにふれて老人票を失うからです。そういうしがらみのない保守党こそ、消費減税などという目くらましではなく、社会保障改革に挑んでほしいものです。