筆者は、企業の採用に関わる仕事を行い、関連書籍も出版しています。毎年、「新卒採用ほどムダなものはない」と考えています。
本記事では、長年、企業の採用に関する仕事に携わり、関連書籍もある筆者が、新卒採用を「ステマ」と断じる理由について解説します。
まったく役立たない就活本
就活関連書籍を読むと、企業へのエントリーを絞ることが推奨されています。絞ることで企業研究の時間が取りやすくなり、注力できるメリットはあるかも知れません。しかし、エントリーを絞ると、チャンスを棒に振る危険性があります。
学生に講義をする際、「エントリーは可能な限り多くの企業に申し込むように」と指導しています。それが内定を取得する近道だからです。エントリーをしないことは、目的地に行く手段を自ら放棄することと同じです。
エントリーしても受験できないという学生もいると思います。全てを受験する必要はありません。企業はエントリー数に応じて説明会の準備をするので、数日前にキャンセルをすれば問題ありません。
効率良く就活を進めるには、ESにかける時間を削減することです。最初の段階で人事担当者にESが読まれることはまずありません。個人面接に移行してからです。さらに、ESが素晴らしくても内定に及ぼす影響度は微小です。時間をかけるのはムダというものです。
就活を効率良く乗り切るには、業界別に数パターンのESを用意しておけばよいでしょう。内容も時間をかけて差別化しようなどとは考えないことです。自分が思うほど、差別化したESなど書くことはできません。内容は平易なもので十分です。
なまじっか、ESのようなものに時間をかけるから、お祈りメールが来た時にショックを受けるのです。エントリーするために最低限の体裁を整えておけば、問題はありません。自信があるESを業界別にコピペして用意してください。
学歴フィルターに翻弄される学生
「就活のミスマッチ」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。ミスマッチとは、採用する企業と学生との間に認識のズレがあり、入社後にギャップが生じて、新卒社員が早期に離職してしまうことを意味します。3年で3割の新卒社員が離職することが「ミスマッチ」の基準とされていますが、実際はどうなのでしょうか。
関心のある方は「新規学校卒業就職者の調査」(厚生労働省)を過去にさかのぼって調べてください。昭和40年の高度経済成長時代から、ミスマッチは社会問題として取り上げられています。当時の数値と現在の離職率にそれほどの乖離があるわけではありません。
これまで、高度経済成長があり、バブル景気、リーマン・ショック、コロナ感染拡大など多くの出来事がありましたが、実態はそれほど変わらないということです。よくいえば、新陳代謝であり、まったく異常なことではありません。
学生の志向はどのように変化しているのでしょうか。1970年代にさかのぼって各紙を調べてみてください。大手企業に人気が集中している実情がわかると思います。現在も、大手企業は採用マーケットの主流です。
筆者は大手企業以外に注目が集まり、応募が殺到したという話は聞いたことはありません。つまり、採用は基本的に変化に乏しい市場だということが分かると思います。
就活がお見合い?とんでもない
就活は学生と企業が出会う機会、「お見合い」だと主張する識者がいます。相手を選ぶという意味では同じ意味ですが、まったくフェアなお見合いではありません。
企業にとって、新卒社員を入社させることは先行投資になります。投資という多額の出費がかかることに加えて、費用対効果を考えますから、投資効果が見えやすいものを重視せざるを得ません。投資効果が見えやすいものが大学名です。「学歴フィルター」はなくなりません。
以前、学歴不問を打ち出すオープンエントリーがはやりました。ところが、大学名を書かなくても、8割方は大学名を特定することが可能です。実際にそれらの業務を受託していた企業も存在しました。会社説明会を訪問した時点で、大学名はほぼ特定されていたのです。
学生に「採用されるかも」と幻想をいだかせるのはもう辞めませんか?